地域づくり

社会福祉法人E.G.F (Easy Going Farm) 総合施設長 渡邉宥照さん講演要旨

農商工連携の新しい形を探る「東信州次世代農商工連携セミナー」。その第4回目が令和4年11月8日、上田市の信州大学構内の産業支援施設ARECで開催されました。

今回は「農福連携の新しい歩み ― 制度と実践事例を学ぶ」をテーマとし、初めに長野県健康福祉部障がい者支援課の宮嶋風太さん、長野県セルプセンター協議会の沖村さやかさんから農福連携の制度や実践例をお話しいただきました。

この日3人目の講師には、山口県萩市を本拠地とする社会福祉法人E.G.F (Easy Going Farm)の総合施設長である渡邉宥照さんにご登壇いただきました。

障がい者とともに中山間地の農業を担い、真の自立に向けた試みをお話しいただきました。 (文・浅川敬吾)

農業を「継承」し、自立性を確保する

私が考える農福連携は他の人と少し違います。私は、農業を「受託」するのではなく「継承」し、最終的には中山間地における農業を私たちが引き受けていくことこそが農福連携であると考えています。「作業を受託でき、工賃がもらえればいい」という考えは私たちには全くありません。なぜならば、単に受託しているだけでは、高齢化等で農家がいなくなった時に、障がい者たちも仕事を失うことになるからです。障がい者たち自身が農家として中山間地を守り、社会に貢献しながら自立して生きていけるようにしていくことが本来の福祉のあり方だと思います。

そこで、私たちの施設では、3ヶ月から半年、あるいは1年かけて、障がい者一人ひとりの特性をしっかり見て、どういった作業を任せるべきか徹底的に見極めています。全てを卒なくこなせる人などいませんので、自分の専門性を磨いていくことが大切です。そして、特化した分野において自信を持つことが自立に結びついていくのだと考えています。

自立には「仕事」と「生活」どちらも重要

創業以来、私たちは自然の中で作業をする農業こそが最大の福祉ケアと考え、一貫して農業に取り組んでいますが、仕事と生活を分けずに、「24時間」の支援体制を重視しています。

仕事はできるけど生活が滅茶苦茶だったり、逆に、生活はきちんとしているけど仕事ができないといった状況になってしまっては、真の自立は望めません。そのため、E.G.Fでは、太陽の下で生きることが重要と捉え、室内作業ではなく農業に取り組んでいるのです。これにより生活リズムが整い、体力も付き、持続力や忍耐力も養われます。

また、「障がい者が作った商品」という、ある意味、障がい者を「売り」したような商品作りはせずに、責任を持って「本物」を作るようにしています。後述しますが、私が栽培している果物は、障がい者が作ったとは露も感じさせない高付加価値の高級品です。

さらに、私たちはSDGsが世間で叫ばれる前から、「作ったものは全部使い切る」という理念のもと、14年前からゼロエミッションにも継続的に取り組んでいます。 こういった自然との調和を大事にし、陽光を浴びながら規則正しく通勤し、四季を感じて生きていくことが自立の基盤となるのです。

「本物」を作る

障がい者が自立した生活を営んでいくためにはお金も必要です。そのためには工賃を向上させることが必要ですが、その方策として私たちが最初に取り組んだのがイチゴの栽培でした。全国を巡り、100種類以上のイチゴを見て、障がい者たちが取り組むイチゴ作りにおける最適解を徹底的に模索しました。そして辿り着いた結論は、高付加価値の高級イチゴを作るということでした。

高級イチゴはおろか、普通のイチゴを栽培するだけでも大変なことです。しかし、普通に作ってみても価値は付かず、工賃向上には繋がらないと思ったため、高級イチゴの栽培に踏み切ったのです。そして、この計画を実現させるために、私たちは先に出口を設けました。どういうことかと言うと、イチゴよりも先に箱を作ってしまったのです。障がい者が作ったとは思わせないようなギフトボックスです。そしてその箱にぴったり入るような粒の大きいイチゴをどうにかして作ろうと取り組みました。最終的にこのイチゴは1箱5000円で売ることができました。

このイチゴを栽培しているのは発達障害を持つ方ですが、イチゴの苗を一人で管理し、栽培地の各畝の詳細な状況をすべて把握しています。彼に聞けば、どの列にダニが発生していて、それに対してどのような対策を講じているのかまで答えてくれます。

このように障がい者であっても能力を発揮し、自立して仕事をし、生活することが可能となっているのは、私たちが障がい者一人ひとりと向き合い、彼らの特性を徹底的に見極めているからです。

障がい者と向き合い、適性を把握する上で最も大事なことは、彼らの家庭環境を知ることです。私たちは家庭訪問をし、入所者のバックグラウンドを把握するようにしています。こうすることで問題が起こった時にも適切に対処でき、「あなたのことを理解しているよ」ということが伝われば、信頼関係が構築できるのです。

6次産業化にも取り組む

私たちの農場は過去に水害にあったことがあります。その時の経験から、リスクヘッジのために事業を複数個所に分けるようにしています。その中で、阿武町の事業所には、山口県で唯一となる冷凍カット野菜工場があります。そこでは、農作物の栽培だけでなく、野菜のカット加工も行い、学校給食に卸すという、1次、2次、3次を掛け合わせた6次産業化への取り組みを行っています。

給食でよく使われるホウレン草、小松菜、チンゲン菜のほか、今はトマトが大人気です。しかし、こういった日常的に口にする農産物も、学校給食等で大量に消費する場合には、多くが外国産となってしまいます。このような状況の中で、私たちが6次産業化していけば、地産地消にも貢献できると考えています。

また、こども食堂への参入も検討しています。私たちは栽培も自分たちで行っているため、一食を低価格で提供することができます。このように、6次産業化によって栽培から販売までを一手に引き受けることで、様々な取り組みが可能となっていくと思っています。

無駄な人などいない。農業に無駄はない。

今、障がい者福祉のあり方は変わらなくてはいけない時に来ていると思っています。何もかもをサービスに頼って、「障がい者は何もしなくてもいい」という考え方でいてはいけないと思っています。はっきり言うと、私は障がい者であっても「働かざる者食うべからず」だと思っています。自分にできる形で労働という義務を果たしていかなくては権利の主張も認められないからです。

しかし、障がい者が工賃を貰って労働することができるとなると、障害年金を返せと言う声が田舎では起こってきます。障害基礎年金は2級で月額67000円。これに労働によって得た十分な工賃が加わると、パートの方の給料よりも高くなってくるからです。(山口県の場合、最低賃金は時給888円)それでいて、障がい者が犯してしまった失敗の後片付けはパートの方がしなくてはいけません。そうなると、どんなに人が良くても、次第に障がい者が得ているお金に難色を示すようになります。

この問題に対して私たちは、全ての賃金体系を詳細に作ることで対処しています。生活介護と言われる、障害の程度区分が5や6の方にも、私たちの所では仕事をしてもらい、それに応じた労賃を払っています。たとえ、石1つ運ぶだけの作業や草1本取るだけの作業でも立派な労働だと私は考えているからです。この世に無駄な人などいませんし、農業に無駄な作業などありません。

時にヘビに噛まれて大騒ぎになることもありますが、これも彼らにとって大事な体験だと考えています。「障がい者には分からないから。危ないから。」という理由で何もさせないと、彼らの体験の機会はどんどん失われ、自立から遠ざかっていくことになってしまいます。

E.G.Fの将来構想

大学を卒業して社会に出た私たち健常者でさえ、社会人になった時には大きな不安を抱えるものです。まして、障がい者は大学での経験もないため、社会の中で抱える不安は一入です。彼らは能力がないから大学に行ってはいけないのでしょうか? 私はあっていいと思います。

今、私が考えているのは短大構想というもので、2年間の学習期間で基礎的な国語力や計算力を付けると同時に、倫理や情報リテラシーも学び、また、寮での共同生活を通じて社会規範を理解していくための場を設立しようと構想しています。 ここで身に付けてもらう基礎学力は小学校2年から4年程度の内容です。それだけあれば社会の中で活動していくことができます。皆さんも微分・積分なんて日常では使わないですよね(笑)。大事なのは与えられた役割を理解して担っていく力や、トラブルを乗り越えていく力です。そういった事を学び、体験し、訓練していける場が彼らには必要です。

私たちは、障がい者を「助けるべき存在」として認識するのではなく、個性の1つとして受け入れ、社会の中で共に協力していくべき存在だと認識することが大事だと考えています。そういった考えから、農福連携以外にも、企業との連携や、林業との林福連携、水産業との水福連携にも取り組んでいきたいと考えています。例えば、魚を3枚に捌くには機械に通すだけで簡単にできますが、大変なのはそれを干す作業です。しかし、干す作業であれば障がい者にも十分可能です。ですから、「障がい者だからできない。しなくていい」という考えは捨て、特性を見極め、適切な訓練を施した上で、社会参加させていくことが私たちのやり方であり、真の自立に結び付くやり方だと考えています。

記者あとがき

単なる作業の受託ではなく、中山間地の農業を継承し、自分たちで農業を営んでいくことが真の福祉のあり方だという、常識を覆すような渡邉さんの発想に、私は目を開かされました。初めは途方もない計画のように感じましたが、一人ひとりの見極めを行うことで、成果に結びつかせることが可能であり、農業を通じて自立した生活の基盤を築いていくというお話に、私は感銘を受けました。

そして、一人ひとりの特性や強みを活かせる適正作業を見極めることは、障がい者が自立して生きていくことにおいて意義を持つだけでなく、健常者も含めて、人が社会の中で他者と認め合いながら、自分らしく生きていくために最も必要な支援であるように感じられ、自分の領域で力を発揮することが社会の中で生きるということなのだと、そう考えさせてくれる講演でした。

この記事を書いた人
産直コペル 編集部
この記事は、産直新聞社の企画・編集となります。