直売所

【直売所訪問記】おもしろい・珍しい・ここにしかないー 人のつながりで物を集める直売所/港の駅 菜館(宮崎市古城町)

宮崎市古城町、のどかな田園地帯にレトロな雰囲気満載の直売所「港の駅・菜館」がある。店のオープンは9年前の2012年だが、つい最近、コロナ禍が広がり始めた2020年の4月に、現在の経営者である川田晃嗣・真紀夫妻が経営を引き継いだ。「おもしろいお客さんとおもしろい生産者さんが集まる店を目指している」という、〝おもしろい〟経営者ご夫婦に「菜館」の魅力を聞いた。(取材・文 毛賀澤明宏)

近郷近在のこだわりの品が集まる

店に入ると鮮魚売り場が広がる店内店に入ると鮮魚売り場が広がる店内

「菜館」という店名から、野菜が主軸の陳列をイメージして店内に入ると、いきなり冷蔵ケースや発泡スチロールに入れられた魚介類が目に飛び込んでくる。青島の岩ガキ、内海のツバメウオ、手釣りのグルクン(沖縄の魚ではなかったのか!)…他店の海産物直売コーナーにある一般的な鮮魚類とはずいぶん趣きが違う商品が並ぶ。

「自分で釣った魚を毎日持ってきてくれるんですよ」「ここにしか出荷しないという生産者が多いです」―と店長の川田真紀さん。先代経営者の時代から付き合いのある出荷者が、この店のために獲り、自ら運んでくる魚介類が多いという。
「この店の専属漁師みたいな方もいて、釣りたてを船から直接持ってきてくれる人もいます」と代表の川田晃嗣さん。「ツバメウオなんてめったに手に入らないけど、この店ではよく出る。うまいんですよこれ。お客さんも良く知っていて『ここにしかないから』と言って買い物に来てくれるんですよ」。気っ風の良い語り口で奥さんをフォローした。
それもそのはず、晃嗣さんは鮮魚市場でも働いており、「大きな声がとりえ」だとのこと。

市場から新鮮な魚を自分の目利きで仕入れてもいる。特に鮮魚の刺身は好評で、毎日100パックは売れる。魚をさばいて刺身におろすのはもちろん晃嗣さん自身だ。

綾地鶏など農産物も個性的

「魚だけじゃないんですよ。この地鶏の売れ行きがすごいんです」。真紀さんがそう言って見せてくれたのは「綾地鶏」とネーミングされた、700g入りの鶏肉のパック。自動車で30分弱の綾町の養鶏農家が「絞めたて」を出荷する。特に水・土・日は100パック以上が売れる人気商品だ。この「綾地鶏」の徳用パックも、他の直売所やスーパーなどには出荷されておらず菜館ONLYだそうだ。

「綾地鶏は美味しいですよ」と川田真紀店長「綾地鶏は美味しいですよ」と川田真紀店長

そんな説明を受けながら店の中を回ると、どの農産物もストーリー性に満ちたこだわりの品ばかり。取材時にちょうど出始めだったスイカやメロン、ブルーベリーなどは、何気なく棚に並べられているが、多くはギフト用の良品。「数は多くはないですけど、この時期菜館に来ればあの人のスイカが買えるというような目的買いのお客さんが多いので、そのお客さんのために出荷してくれる生産者さんがいるのです」と晃嗣さんは話す。

自家焙煎の落花生とか、「市場出荷用のA品を『少しだけど…』と言って持ってきてくれる」という地元産のピーマンや人参…どの品物も、「生産者の○○さんが、これこれの理由で、この店に持ってきてくれている」と川田夫妻が楽しそうに説明してくれる。それだけの「ストーリー」を持っている。

フラワーデザイナーがお客さんを呼ぶ

フラワーアレンジメントで人気の栗本友美さんフラワーアレンジメントで人気の栗本友美さん

出荷者・生産者目当てにお客さんが集まる―その最たるものが店の一角を占めるフラワーアレンジメントのコーナーだ。生花や鉢花だけでなく様々な趣向を凝らした作品を出店しているのはフラワーデザイナーの栗本友美さん。おしゃれで可愛い作品は、〝市場っぽい〟菜館の店舗内では、ある種別世界の雰囲気があるが、ここにも多くのお客さんが集まる。売上げ額が大きなコーナーだ。

他店舗にも出店しているが、菜館での売上げが最も多い。「固定のお客様に定期的にお買い上げいただいています。電話で注文をいただいて、ここに並べておくということもよくあります」と栗本さん。海産物・地鶏・果物・野菜、それにフラワーアレンジメントまで、この店で、客と出荷者が結びついているのだ。

“人が集まる場所”を目指して

野菜・果物・生花のコーナーも楽しい野菜・果物・生花のコーナーも楽しい

川田夫妻がこの店を継いで1年余。コロナ禍でも、順調に店を運営している。先代時代から継続して出荷してくれる生産者も多いが、新しく出荷者になってくれた人もいる。特にUIターンの若者層。「もともとサーフィン目当てにこの辺りに来るようになって、そのまま居付いた若い人が、野菜や加工品を作って出してくれるようになってきた」と晃嗣さんは話す。
登録生産者数は約700人。常時出荷者は150~160人。若い出荷者が増えるにつれて内容が充実してきているインスタが、集客にも、出荷者拡大にも役立っているようだ。

「みんな、買い物に来ているのか、出荷で来ているのか、よく分からない。話し好きで、毎日たまり場に集まって話を楽しんでいる感じです」と晃嗣さん。「私たちもそれが好きでこの店を引き継いだようなもんですからね」と真紀さんも語る。この人の売りたいものと、この人が買いたいものをつなぐ。人と人とをつなぐ―古くて新しい直売所の原点が見えたような気がした。

※この記事は「産直コペルvol.49(2021年9月号)」に掲載されたものです。

漁港の魚市場のような「港の駅 菜館」漁港の魚市場のような「港の駅 菜館」

農産物直売所 港の駅 菜館

住所:宮崎県古城町馬場田5973-2
電話:0985-59-0115
営業時間:8:00~18:00(サマータイム実施中は
7:00〜16:00。季節により変更がある)
定休日:なし

ABOUT ME
毛賀澤 明宏
産直コペル編集長 株式会社産直新聞社 代表取締役社長