地域づくり

道の駅から考えるこれからの地域おこし ーー 中日本ハイウェイ・エンジニアリング名古屋株式会社 道の駅 越前おおの 荒島の郷 前支配人 万年正彦さん

令和3年4月22日にオープン。決して交通の便がいいとはいえない中山間地の一角で、加えて新型コロナが猛威を振るう最中だったにもかかわらず、当初予定だった年間38万人の来場者数をわずか3カ月で突破。半年弱で50万人、一年で67万人ものお客様が押し寄せ、稀に見る大成功と呼べるスタートを切った「道の駅 越前おおの 荒島の郷」。その準備段階から携わり、令和3年度は支配人として現場を取り仕切ってきた前支配人、万年正彦さんが、2022年9月13日(火)、長野県上田市のARECで開催された「東信州次世代農商工連携セミナー」で講演されました。道の駅のオープンまで、そしてオープンしてから現在までの道のりとは?(まとめ・中村光宏)

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「高速道路のドクター」が参入した訳

「道の駅 越前おおの 荒島の郷」前支配人 万年正彦さん。道の駅の計画前から、大野市の依頼もあり市が抱える様々な課題の解決に当たってきた

 私たち中日本ハイウェイ・エンジニアリング名古屋株式会社は、おそらく皆さまご存じの中日本NEXCOのグループの一員で、高速道路の保守・点検を担っている企業。いわば「高速道路のドクター」です。
 そんなまったくの異業種の会社が道の駅運営に名乗りを上げたのは、これはどちらの企業でも考えられていることですが、経営計画の基本戦略の中に「新たな事業領域の拡大・成長」というものがあり、そのひとつとして「地域から頼られる会社となり」、「地域との結びつきを強めながら、社会貢献に努める」という方針が示されたことによるものです。そして、地域に貢献することで、結果、(その地を通る)高速道路の価値を高めるという使命も帯びています。
 私たちは、その経営後進に沿って、2011年度(平成23年度)から福井県大野市と地域連携し、社会貢献のための活動をして参りました。

大野市の現状と市が抱える課題

 大野市は、日本百名山のひとつにも数えられる「荒島岳」をはじめ、四方を山に囲まれた町。豊かな自然があり、天然記念物「イトヨ」も生息する清らかな水が豊かで、美味しい“食”にも恵まれています。1980年には、日本で最初にユネスコエコパークに認定された「白山ユネスコエコパーク」。それを構成する4県6市1村の10エリアの一翼を担っています。また、越前大野城や日本三大朝市のひとつとして今も連綿と続く「七間おおの朝市」を見ても分かるように、歴史もあり、たくさんの文化、伝統が息づいている町でもあります。

 しかし一方で、国内の多くの自治体と同じく、中山間都市が抱える少子高齢化、人口減少などの問題が顕在化し、行政が市をあげて地域経済の活性化、雇用の創出に取り組んでいらっしゃいました。
 そして、それらの課題解決のために、当社にご相談をいただいたのが、「道の駅 越前おおの 荒島の郷」へとつながっていく、そもそものきっかけでした。

大野市との地域連携と社会貢献活動

 2011年度からはじまった当社の、大野市との地域連携と社会貢献活動の取り組みは、大きく分けて3つのステップに分けることができます。
 まず、ステップ1としてCSR活動。新型コロナの影響で2020年度、21年度は中止を余儀なくされましたが、もちろんこれは今も続けています。具体的には「新そばまつり」への出店など。実は小社には、そば打ち自慢の社員もたくさんいまして、彼らが代わる代わるそばを打ち、参加者に振る舞っています(笑)。

 ステップ2は市から受注した地域活性化事業。2013年度(平成25年度)から3カ年事業で、主に大野市のPRに力を注ぎました。先ほど少しお話しした越前大野城ですが、(雲海から顔をのぞかせる)城の観光用のポスターをご覧になったことはありませんか? 実は、「天空の大野城」というコピーは私が作ったものです。おかげさまでそのポスターは、日本観光ポスターコンクールのオンライン部門で1位を獲得。年間観光客数も前年度の150万人から約200万人と、大幅に増加しました。

 わずか3年で、2012年にはランク外だった「住みたい町ランキング」で大野市が4位に躍進するなど、大きな成果を出すことができたのではないかと思っています。

道の駅を通じて地域活性化に取り組む

 そしてステップ3が、今回のテーマである「道の駅の指定管理事業参入」。つまり、道の駅を通じた地域活性化の取り組みです。2015年度からそれを視野に調査などを行い、私も大野市やその近隣について、町の方々にお話を伺ったり、大野に関する書籍を読み漁ったりしながら、町の人に「私たちよりも大野のことを知っているね」なんて言われるほど、あらゆることを勉強しました(笑)。
 その後、指定管理者として事業認定を取得したのが2018年。「道の駅 越前おおの 荒島の郷(以下、荒島の郷)」のオープンは2021年4月22日のことでした。

道の駅 越前おおの 荒島の郷の完成イメージ

 荒島の郷があるのは、現在NEXCO中日本が令和8年春を目途に全線開通を目指している高規格道路「中部中縦貫自動車道(無料)」の大野東ICに隣接する場所です。高規格道路は、広域ネットワークの構築、地域経済の活性化、地域経済の安全・安心の確保につながるとされますが、残念ながら現在は、決して交通の便がいいとはいえない場所に建っています。
 加えて、コロナ禍真っ只中での開駅(グランドオープン)となりましたが、おかげさまで同年10月7日に来場者50万人を突破。翌22年4月22日の開業1周年には75万人を突破と、最高のスタートを切ることができています。

「道の駅 越前おおの 荒島の郷」とは?

 荒島の郷は、敷地面積49,137㎡、建物面積5,082㎡。大小合わせて約200台の駐車スペースを有しています。

エントランスを入るとまず目に入るのは4台の大型モニター

 建物は、中央部のエントランスを入ると、道路情報などを伝える大型モニターが4台並んでおり、右が直売施設、飲食施設、左にはモンベルのショップという構造。敷地内には、荒島岳を模したミニ荒島岳やカヌー体験池、クライミング施設などもあり、大野市の大野の食と自然を伝えたいという思いを一度に味わっていただけるようになっています。
 また重点道の駅として、休憩機能に加えて情報提供機能(道路情報施設)、地域連携機能(地域振興・地域創生施設)、そして防災機能を有しています。特に防災機能については、21年6月に、日本初となる防災道の駅に選定され、現在、日本で飛んでいる最大のヘリコプターの離発着が可能なヘリポートも付設されています。
 他にも広域支援部隊の一時集結、支援物資の中継・分配などのための場所の確保など広域的な防災拠点としての機能に加えて、防災備蓄倉庫や防災トイレ、貯水タンクなど地域住民の避難場所としての機能を有しています。
 この防災機能は、今後の道の駅には必須の機能となっていくかと思います。

荒島の郷をどのように運用するか

 そんな荒島の郷を、実際にそのように運用し、どんな方に来ていただくのか。私たちは、その方向性を決めるにあたり、成功しているといわれる道の駅を徹底的に検証しました。そしてその結果、「立地」すなわち人口集中都市に近いこと、そして「魅力」すなわちまた来たいと思っていただけるような仕掛けの2点が重要ということに行きつきました。
 それらを踏まえ、人口約31,000人という大野市の荒島の郷をどのようにデザインするのか。上記の検証を元に、私たちが出した結論は、「地域の強みを活かし、地元の方々と共に、地元に愛される道の駅」というものでした。そしてターゲットを休日の観光客とファミリー、へ実は道路利用者と地元の皆さまとしました。
 最重要と考えた、地域の強みを活かした新たな魅力の創出については4項目で実現しています。
 一つ目は、恵まれた水の活用。防災にも使用する地下70mからくみ上げた水を利用して、駅内に「九頭竜川淡水魚ミニ水族館」を設置。国の天然記念物にもなっている「アラレガコ」も泳ぐ水槽は子供たちに大人気で、ファミリー層の集客にも役立っています。また、その飼育管理を奥越漁業組合が、飼育指導を福井県立大学が担ってくださり、地域の交流にも役立ってくれています。

 二つ目は、山に親しんでいただくこと。先ほどもお話しした「ミニ荒島岳」や車専用宿泊施設「RVパーク」の設置がそれに当たります。特に、トンネルの掘削土を利用した本物の荒島岳の土砂を使い、荒島岳の登山ルートをリアルに再現したミニ荒島岳には、幼稚園がミニ遠足をしてくれるなど地元でも愛されています。

 三つ目は、大野市の名産品「米」を使った六次産業化の取り組み。道の駅内で製粉する大野産コシヒカリの米粉を100%使った「米粉バームクーヘン」を、他社に委託することなく自分たちだけで作り上げました。製焼、梱包も販売もすべて駅内です。自分たちで企画から製品化まですべて担うというケースは、全国でもおそらくないのではないでしょうか?

 そして最後は、やはり新鮮な地場野菜が豊富に並ぶ直売所です。ここでは通年での販売が可能なマイタケや米、一次加工品も豊富な多種多彩なサトイモの他、季節の野菜、山菜を販売しています。

地元と共につくる道の駅

 高齢化が進む大野市は、地元の野菜生産者もまた高齢化などで減少の一途を辿っている現状があります。そこで「地元の方々と共に」というキーワードについては、まず地元生産者が荒島の郷で地場野菜を優先販売し、通年、利益を生み出せるようにすることで地域が豊かになるという仕組みを考えました。そこで地元農家にご参集いただき誕生したのが大野産直の会です。

 しかしただ生産者団体を新設したというのではなく、近隣の既存の直売所と共に新組織を構築し、「地域の生産者を地域直売所でシェアし、地域で助け合ったり、指導したりするという体制を整えました。実際に出荷される商品管理用のバーコードを共通化し、生産者が直売所を自由に選択できるようにしています。また、強固な組織が誕生することで、雪深い奥越ならではの冬季野菜不足の解消に向けて栽培指導したり、交通弱者や高齢者でも販売できる集荷システムを構築できるようにもなりました。
 2022年7月現在で、会員数は216人。農家中心の農産品部会が128名、大野市内に数多い菓子店中心の加工品部会が88人となっています。同会には、大野産食材をつかった道の駅オリジナル商品の開発をお願いしており、すでに51件もの商品開発がなされ、道の駅の人気商品になっているものも少なくありません。

大野産もち米に福井特産のイチゴ「越のルビー」などを贅沢に丸ごと使った「ごろっと大福」も荒島の郷向けに開発されたオリジナル商品。中のフルーツはキウイ、ミカンなど多彩で、累計700個/月を売り上げる

飲食店舗も地元で運営

九頭竜マイタケをふんだんに使った「マイタケバーガー(1700円)」(上)
大野市民が愛するトンちゃんに大野産コシヒカリのおにぎりをセットした「九頭竜トンちゃんおにぎりセット(1000円)」(下)

 一方、直売所の奥にあるフードコートやテイクアウトテナントについても、地元の5店舗にご出店いただきました。出店条件はただひとつ。地元の特産品や直売所で販売している食材を使用したメニューを入れてほしいというもので、中には地元の高校生のアイディアをメニュー化したような例もあります。
 その他、企業を目指す市民の支援を目的に2店舗、社会復帰を目指す方の支援を目的に1店舗を出店。障碍者の就労機会を提供すべく清掃業務も委託していたのですが、2022年には働いてくださっていた方の内お1人が、一般就労者として就職するという嬉しい出来事もありました。

 そういったことを地域はもちろん全国の方々にお伝えしていくための広報活動については、フリーパブリシティを積極的に活用しるだけでなく地元のコミュニティFMとも連携し、「道の駅 荒島の郷だより」という冠番組を持ち、毎週必ず最新情報をお伝えしています。

荒島の郷の開駅効果と考察

 以上のような数々の工夫や努力によって、荒島の郷が成功を収めていることは冒頭からお伝えしておりました。具体的にそのデータを紐解いてみると、来場者数については当初の年間来場者目標ではる38万人に対し、開業53日目で20万人を突破。初年度は累計67万人と大いに上回ることができました。特に開業して間もないゴールデンウイークの5月3日には1日では最多の9630人もの来場者を記録しました。

 アンケートによると県内の来場者は6割程度。また全体の4割がリピーターでした。一方で、雪深さや冬季野菜不足などの影響で、12月~翌年2月は想定を下回っており、今後の課題です。コロナ禍が収束すれば、中京、関西、北陸圏を中心に来場者が増加することが予想されるため、今後は直売所を中心としたサービスの向上を通年で確保し、さらに魅力ある施設として認知されるよう積極的に広報していくことが大事と考えています。
 最後になりますが、荒島の郷は、新製品の開発などにより、これからも常に進化し続ける道の駅であり続けることはもちろん、さらなる高齢化が懸念される産直の会についても「おおの産直の会 夢10年プロジェクト」を始動。移住者支援や通年栽培、助け合いの集荷システムなどを通して、10年後も安定した、魅力あふれる産直の会であり続けることを目指しています。そして、これからも地元の方々と一緒に、地域に愛される道の駅を目指して参ります。

記者の目——地元に愛されることこそが大事

 この講演を通じて、万年さんから何度、「地元に愛される道の駅」「地元に信頼される道の駅」という言葉を聞いただろうか? 

 しかしそれが、決して講演用に準備されたお題目ではないことを、実は記者は知っている。開駅1周年を記念したガイドブックの制作に携わり、何度も荒島の郷に足を運び、産直の会の生産者、加工業者、大野市の担当者や大野市民に話を聞く機会があったのだ。

 驚くべきは、1年を経てもなお、皆さんが一様に荒島の郷のために何かしよう、何かしたいと強く思っていたことだ。そこには、ただ単に地域活性化のツールのひとつとしてへの期待ではない、荒島の郷に対する思慕にも似た感情が見て取れた気がした。

 万年さんは、そんな出荷者を集めるのも、ほぼすべて自身の足で訪ね、勧誘していたという。何人かの出荷者は、いきなり万年さんが訪ねてきて、「このお野菜(お菓子なども)は本当に美味しいから、是非ウチでやりましょう!」と切り出され、目を白黒させたものだと笑っていた。市内の老舗菓子店を経営する出荷者は、「万年さんは何代にもわたって大野に住む私たちより、町や町の人たちのことに詳しいよ」と教えてくれた。その目は、旧友に向けるように優しかった。

 道の駅の大成功は、そんな万年さんひとりの力ではもちろんない。講演で万年さんが何度も言っていた通り、それまでにも、長い間、地域農業の振興のために奮闘してきた、そして今なお奮闘し続ける(株)和泉リゾート(「道の駅 九頭竜」の運営事業者)や、一般財団法人 越前おおの農林樂舎をはじめとする各種団体、「越前おおのまるごと道の駅ビジョン」を進めてきた大野市の並々ならぬ努力があったからこそ、また彼らの協力があったからこそ万年さんは地域に馴染むことができた。

 それでもやはり、この成功が、万年さんを信頼すると決めた多くの大野市民が力を合わせた結果であることを考えると、今回の講演のテーマであった「地元に愛される道の駅を目指して」ということについて、荒島の郷はすでに十分にクリアしていると言っていいだろう。

 目の当たりにした開駅1年目での盛況ぶりを思い出すにつけ、道の駅のみならず農産物直売所の真の意味での成功の秘訣は、行きつくところそこにしかないのだと、今回の講演を通じて改めて感じさせられた。どんな立派な施設でも、売るものがなければただの箱なのだ。(産直新聞社・中村光宏)

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産直コペル 編集部
この記事は、産直新聞社の企画・編集となります。