地域づくり

お困りごとは、なんですか? ―一関まちづくり株式会社専務取締役/店長 梁川真一さん

2023年1月10日、東信州次世代産業振興協議会(長野県上田市)が主催する「東信州次世代農商工連携セミナー」の第6回が開催されました。今回のテーマは「中山間農業集落・中心市街地商店街―若者たちの挑戦~」。地域の食と農をいかにつなぐかという課題に対して先駆者的な存在である2つの先進事例が紹介されました。そのうちのひとつを話してくれたのは、一関まちづくり株式会社専務取締役であり、街なか産直新鮮館おおまち(以下、新鮮館おおまち)の名物店長として知られる梁川真一さん。記者が感心を禁じ得なかった、その要旨をお伝えします。(まとめ・原康明)

農と地域振興を牽引する東北のリーダー

私が店長を務める産地直売所「新鮮館おおまち」は、岩手県一関市の中心市街地にあるアーケード商店街にあります。特徴的なのは、なんとパチンコ店の隣にあるということ。おそらくこんな店は、全国唯一だと思います。私はここを拠点として、一関市を中心に周辺の広範囲な地域に及ぶ「産業の空洞化再生活動」に取り組んできました。

その中で自分が掲げたテーマが「直売所を発信地として地域振興に貢献すること」です。「できない」という言葉を絶対に口にしないことをモットーに、行動第一主義を徹底して貫く姿勢で各地域の再生・振興に日々尽力してきました。

ちなみに一関市は、岩手県の中でも太平洋側と内陸部のちょうど中間地点に位置するため、1つの作物に対しても収穫時期が若干ズレています。そのため直売所では比較的長い期間、地元の単一産物を売ることができる立地条件が特徴です。市の面積は全国で12位ととても大きいにもかかわらず、人口は約11万人。

私は日々この広大な地域を駆けずり廻り、毎日午前中は常にこの地域の「誰か」を訪ねるのが日課です。 あらゆる農畜産物の生産者さんや商店街の店主の方などと密なコミュニケーションを取ることで、地域の人々と本当の意味で一緒になって、それぞれの人が抱える問題に体当たりで解決の糸口を見つける。 それが私のライフワークです。

地域の農畜産物の生産者さんと消費者の方をつなぐのが、梁川さんの日課となっている

生産者と消費者をつなぐ「契約生産者」の維持と拡大

私の活動内容を具体的に申し上げると、農畜産物に関しては、「産地直売所」を軸に生産者と消費者を最短ルートでつなぐことです。例えば、私が店長を任されている「新鮮館おおまち」では、既存の物流ルートとそれにかかるコストを極限まで撤廃。生産者とダイレクトに契約を結ぶことで、安定的に一定数の農畜産物を確保するとともに、既存の流通コストをカットした価格で消費者に提供できる仕組みを積極的に取り入れている。

当然こうした仕組みは、農畜産物の生産者にとって一番頭の痛い「適正販売価格の問題」に関しても、産地直売所と契約を結んで生産者が委託方式を取れることで安定した販売価格を設定し、生産者が抱える問題も軽減できるようになります(ちなみに、この地域の特産物はナス、トマト、キュウリ、ピーマン、コメなど)。

この仕組みを導入してから、生産者と消費者双方に明らかな効果を実感しています。そのため、この仕組みを維持・拡大していくための努力は惜しみせん。

ただ、このネットワークづくりで一番大変なのは、農畜産物の生産者さんに自分の考えを理解していただく以前に、まず私という人間を信頼していただくまでに相当な時間と努力がかかる点です。今でも新規の生産者さんに契約を結んでいただこうとするときには、毎日その方のお宅や圃場に足を運んでいます。なので、毎朝最低でもお昼までの時間は、必ず既存契約生産者さんとの情報交換や、新規で当店と契約をしていただきたい生産者さんのところに足を運ぶことに時間を使っています。

こうした地道な活動が、地域で徐々に浸透していると感じています。私が日々動き続けることで契約生産者さんを安定的に拡大させながら、この地域の活性化に少しでも貢献できればと考えています。

一関市内の直売所「新鮮館おおまち」で実践しているビジネスモデル(梁川さん資料より)

地域振興で意識すべきは「リソース」の的確な使い方

もうひとつ、私の会社で取り組んでいる事業の大きな柱が「空洞化した商店街や商業圏の地域振興・地域再生」です。

商業圏の衰退は、全国的に問題視されていることです。そこで私の会社では、まず地元・一関市の商店街に直売所として飛び込み、この問題を解決するためのさまざまな取り組みにチャレンジしています。

例えば、商店街を活性化するためのイベントの開催や、SNSでの街の魅力発信です。この魅力発信に関しては、一関市出身の方が経営する盛岡にある企画制作会社(株式会社ライト・ア・ライト)さんとタッグを組んで人材育成をする形を取りました。街の魅力を拡散する記事の作成や発信を「ライターを目指す地域の方」に実践練習してもらいながら、「instagram」や「facebook」を中心に地域の魅力ある情報を発信しています。これによって住民目線の血の通った文章をさまざまなメディアに掲載でき、それを読んだ人が「この街に行ってみたい」と感じてくれることを目指しています。

イベントの方はというと、商店街と一体になって「お祭り」を企画・運営し、そのお祭りで販売する商品券を対象の商店街で使えばお得になる仕組みも実践しています。地域内での消費を循環させ、街の活性化を図る狙いです。

さらにそうして盛り上がったイベントを撮影。その動画を「YouTube」などで積極的に配信することで、〝盛り上がりのループ〟をつくる試みを体系的に考えて、課題の解決に取り組んでいます。「YouTube」に関しては、今後はお祭りだけに限らず、もっと積極的に活用して街の魅力を発信していきたいと考えています。

こうしたお祭りやイベントの開催に加え、近年大きく成果を出しているのが、街の特産品を販売するECサイトの売り上げです。これまでは単品ごとの販売だったのに対して、街の特産品を数バリエーションのセット商品として追加したことで、売り上げが大きく跳ね上がりました。ふるさと納税の返礼品に関しても同じくセット商品を追加したことで、反応は明らかに変わりました。魅力溢れるこの土地の特産品をセットにすることで、消費者の方々に受け入れてもらえたんだと思います。

あとは、2年半ほど前から始めた試みで『いちまちデリバ』と呼んでいるシステムもあります。これは、地域の商業圏と消費者を結ぶ相乗りタクシーと、契約店舗の商品のデリバリー代行の仕組みで、高齢化が進む地域の課題解決にひと役買ってくれています。

こうして地域を具体的に活性化する方法を考えては実施しています。トライ&エラーではありますが、まず「行動すること」こそ、問題解決の第一歩だという想いで、日々地域の方々と触れ合っています。

また、私たちが地域振興の軸としているのが、目的達成の為に「どこにリソースを使うのか」です。誰に、何を、どのように届けていくのかを明確にすることで、必然的に解決策が見えてくる。諦めずに問題をロジカルに考えれば、必ず解決の糸口は見えてきます。あとはそれに対して、どれぐらい本気で向き合うか、どれぐらい具体的に行動できるか。これにかかっていると思って日々励んでいます。もはや「仕事」という感覚ではないのかもしれませんね(笑)。楽しくて楽しくて、まだまだ他にも続々と新しい取り組みを増やしています。

梁川さんたちが中心となって企画・実施したお祭りでのひとコマ。街の人々の笑顔が溢れる
一関市を発信源に、さまざまな地域復興プロジェクトが並行で動いている(梁川さん資料より)
常に課題に対してロジカルに考え、「リソース」を的確に使うのがキー(梁川さん資料より)

記者の目―「なんで?・なんで?・なんで?」が原動力

全国初の試みまで展開する一関市。梁川さんのアイデアも採用された(梁川さん資料より)

圧倒的な熱量に加え、ロジカルな思考と戦略、それに基づく行動力で一関市の農と商の地域振興を加速させ続けている彼の原動力は、一体どこにあるのか? それは常に目の前の課題に対し「なんで?・なんで?・なんで?」と常に問いかけることにある。直面する課題を徹底的に深堀りして考え続けることで、必ず何らかの行動の糸口を見つけ、行動に移す。その「思考の掘り下げ」は極めてロジカルだ。そしてそれ以上に「なんで?」という我々が忘れてしまった、もしくは日本人が当たり前だと思って気づかなかったことに、彼の行動は改めて気づかせてくれる。

梁川さんは力強くこう語った。

「僕は〝できない〟とは絶対に言いません」。

その言葉を裏付けるように、また新たなチャレンジの展開にもひと役買っている。それが、ふるさと納税における一関市からの返礼品を、全国のこども食堂に贈る「おもいやり型返礼品」の創設におけるアイデアの提案だ。SDGsの視点から、ふるさと納税(個人版)で1つの自治体が全国のこども食堂を対象に支援する取り組みは全国初。彼はこの行政の試みに際して市役所からアイデアの提案を求められ、それならば「店頭にも並ばない規格外等のものを活用してみてはどうか」と進言し、実際にそのアイデアが採用された。

誰もやらなかったこと、誰も考えつかなかったことを「なんで?」の繰り返しで自分に問い、解決の糸口を掴み、動く。今の日本に求められているのは、こんな東北のリーダーのような存在と、地域の課題解決に対しての具体的に行動する強い推進力なのではないだろうか。そして、その波はきっと全国に波及していくに違いない。(文・原康明)

この記事を書いた人
産直コペル 編集部
この記事は、産直新聞社の企画・編集となります。