地域づくり

【信州大学、長野県CATV協議会と連携】
信州伝統野菜を映像で継承、第3回シンポ開催

2022年3月9日、信州大学、長野県ケーブルテレビ協議会、産直新聞社は連携し(信州大学と長野県ケーブルテレビ協議会が主催、産直新聞社が企画協力・司会)、「信州の伝統野菜アーカイブスプロジェクト~信州の伝統野菜の誇りと思いをつなぐ~」の第3回リモートシンポジウムを開催しました。信州伝統野菜に詳しく初回から解説者を務める信州大学学術研究院(農学系)の松島憲一教授に加え、伝統野菜研究の第一人者である山形大学 農学部 食料生命環境学科の江頭宏昌教授をゲストに迎え、新たに制作した8本の映像を紹介しながら、信州伝統野菜の特徴や伝統野菜が持つ社会的な意義などについて理解を深めました。(文・佐々木政史)

多くの伝統野菜が、今まさに危機的状況に

地元の「伝統野菜」は?と聞かれて、スラスラと答えられる人はそれほど多くないのではないでしょうか。

伝統野菜とは、地域で古くから栽培されてきた野菜のことで、農林水産省のホームページでは、「ある土地で古くからつくられ、採種を繰り返していく中で、その土地の気候風土に合った野菜として確立したもの」と定義しています。

水菜や九条ねぎ、賀茂なすといった京野菜がブランド化されており有名ですが、実は全国各地に伝統野菜が存在し、現在に至るまで継承され続けています。伝統野菜は郷土料理に使用されることも多く、地域にとっては“食文化”という観点からも非常に重要な存在です。ただ、スーパーマーケットなどの一般市場に流通している品種の野菜とは異なり、栽培に手間が掛かり大量生産が難しいことや栽培農家の高齢化などで生産量が減少し、多くの伝統野菜が存続の危機に瀕しています。

こうした実情を受け、地域の伝統野菜を守り次代へ継承しようと、信州大学、長野県ケーブルテレビ協議会、産直新聞社(信州大学と長野県ケーブルテレビ協議会が主催、産直新聞社が企画協力・司会)は、長野県の伝統野菜を映像で残すプロジェクトに取り組んでいます。2020年度から、信州の伝統野菜の作り方や特徴、地域文化としての重要性などを映像に遺す「信州の伝統野菜アーカイブスプロジェクト~信州の伝統野菜の誇りと思いをつなぐ~」を実施。信州大学の学術的知見と、地域に根付いたCATVのフットワークというそれぞれの強みを活かし、映像コンテンツの制作に取り組んできました。

新作8本を紹介、第一人者の解説も

リモートシンポジウム収録の様子。左から山形大学 農学部 食料生命環境学科の江頭宏昌教授、信州大学学術研究院(農学系)松島憲一教授、司会の弊社代表取締役 毛賀澤明宏、伊那ケーブルテレビジョン 平山直子 放送部放送課長

これまで16本を制作しましたが、2022年度は新たに8本の新作を追加。3月9日に伊那ケーブルテレビジョンのスタジオをメイン会場に開催したリモートシンポジウムで、その内容が初めて紹介されました。

リモートシンポジウムは初年度から実施していますが、第3回となる今回は初回から解説者を務めており信州伝統野菜認定委員会座長である信州大学学術研究院(農学系)の松島憲一教授に加え、伝統野菜研究の第一人者で全国の実情に詳しい山形大学 農学部 食料生命環境学科の江頭宏昌教授をゲストに迎え、これまで以上に深堀した議論を行いました。

8本の新作は、「八町きゅうり」(GooLight)、「佐久古太きゅうり」(佐久ケーブルテレビ)、「ひしの南蛮」(コミュニティテレビこもろ)、「大鹿とうがらし」(飯田ケーブルテレビ)、iネット飯山の「常盤ごぼう」、飯田ケーブルテレビ「親田辛味だいこん」、「稲核菜(いねこきな)」(あずみのテレビ)、「松本一本ねぎ」(テレビ松本ケーブルビジョン)。このうち、「常盤ごぼう」はiネット飯山のスタジオと「親田辛味だいこん」は、今回制作した映像の一部(※映像全編は記事末のリンク先ページで視聴可能)を視聴した後、飯田ケーブルテレビのスタジオと中継を結び、生産者へのインタビューも行いました。

また、今回のシンポジウムでは長野商業高校の斉藤桔梗さんによる信州伝統野菜「ぼたんこしょう」の商品化に関するプレゼンテーションもありました。タイトルは「守りたい地域とぼたんこしょう」。中野市の特産物であるぼたんこしょうを使ったおやきを商品化することで、ぼたんこしょうの生産量を増やし農家の収入を高めるとともに、加工や販売に携わる地域の人が潤う仕組みをつくりたいと話しました。

伝統野菜は地域おこしの“未利用資源”

伝統野菜は、前述したように、既に京野菜や加賀野菜といったようにブランド化され、地域振興に役立てられている事例があります。今回のシンポジウムでも、下條村の「親田辛味だいこん」について、その栽培拡大に取り組むNPO法人元気だ下條の事務局長である細田英治さんは、「全国の特に蕎麦屋から薬味としての非常に大きなニーズがある」としています。ただ、地域振興のキラーコンテンツになりうる可能性はありながらも、多くの地域ではまだ十分には活かし切れていない状態にあるというのが実情です。

また、伝統野菜は地域の食文化と密接に関わっており、その継承においても重要な役割を果たしてきましたが、多くの地域では高齢化などで栽培が危機に瀕しています。

こうした未利用資源の活用による地域振興や食文化の継承といった観点から、伝統野菜を次世代へ継承していくことは非常に重要な意味を持つと言えますが、江頭教授によると「地域の大学とケーブルテレビが主体となり、伝統野菜の作り方や特徴、生産者の声などを映像で遺す取り組みは全国でも例がない」とのことです。それだけに、「信州の伝統野菜アーカイブスプロジェクト」の意義は非常に大きく、長野県内だけでなく全国からも今後の展開に注目が集まりそうです。

「信州大学 伝統野菜映像アーカイブスプロジェクト2023」のウェブページ