農と食

【農家を訪ねて】樹勢のコントロールが命/千葉県八千代市 島村農園 島村隼人さん

農業について関心はあれど知識は皆無。願わくばいつかは自分も農業従事者に、と思っている新人記者が、全国各地の直売所で人気を集める、こだわりの作物を育てる農家を教えてもらって突撃取材。農業や農産物についてのあれこれを教えてもらおうという、無謀とも思える連載企画の第1回。今回は、トマトを生産する千葉県八千代市の島村農園さんをお訪ねしました。

島村農園 代表者 島村隼人さん プロフィール

昭和52年2月千葉県八千代市生まれ。高校までは八千代市内の普通科に進み、千葉県立農業大学校に進学。卒業後は千葉県農業試験場で1年間の研修を積み、実家にて就農。2012年頃から父親の事業を少しずつ引き継ぎ、18年に島村農園の代表者になる。消防団の地区分団長や地元農協の青年部部長を歴任。現在は、八千代市の農業委員や「道の駅 やちよ 八千代ふるさとステーション」で農産物直売所を運営する農業組合法人「クラフト」の理事も務めている。

栽培作物とその面積:トマト 7アール(「桃太郎」「ファースト」「ちばさんさん」の3種)
キュウリ6アール、イチゴ6アール(いずれもハウス栽培)
その他、夏は枝豆やナス、冬はキャベツ、ブロッコリーなどを露地野菜として栽培
出荷先:農業組合法人「クラフト」が管理する「道の駅 やちよ 八千代ふるさとステーション 農産物直売所」に100%出荷

筋金入りの農業エリート

島村さんのトマト畑日当たり抜群な島村さんのトマト畑。通路も広く取られているので、風通しが良いだけでなく作業性も高そうだ

千葉県で3番目にできた「ふるさとステーション」がある「道の駅 やちよ」は、千葉県でも有数の交通量を誇る国道16号線沿いにある。すぐ隣をゆったりと流れる新川のほとりには、早春には1000本もの河津桜が咲き誇り、人々の目を楽しませる。取材日も、もはやほぼ葉桜だというのに人が途切れることはなかった。そんな道の駅にある農産物直売所に生産したすべての農作物を出荷し、常に1、2を争う人気の契約農家、今回トマト栽培について教えを請う「島村農園」は同店から車で約5分。昔ながらの丘陵地を拓いたと思しき細いくねくね道を上りきった先の、一面に畑が広がる、のどかで懐かしさを感じさせる風景の中にあった。

現在、同農園の代表を務めているのは今年44歳という島村隼人さん。高校卒業後、千葉県立農業大学校に進み、千葉県農業試験場(現在の千葉県農業総合研究センター)で研修を積み就農。2018年に父親から家業である農家を受け継いだ後は、地元農協の青年部部長や八千代市の農業委員などを歴任し、「道の駅 やちよ」の農産物直売所を切り盛りする農業組合法人「クラフト」の理事を務める生粋の農業人であり筋金入りの農業エリートだ。

島村さん(右)と、今回紹介してくれた農業組合法人「クラフト」代表理事 周郷 崇さん(左)。島村さん(右)と、今回紹介してくれた農業組合法人「クラフト」代表理事 周郷 崇さん(左)。2人の後ろは、今年、島村さんが試しに作った芽キャベツ畑。販売好調だったので、来年も作ろうと考えているという。こういう小回りが利くのも直売所に卸す利点だ

とはいっても、そんな経歴を鼻に掛けることはなく、その人柄は笑顔の写真そのものでとても実直で温厚。夏を思わせるほど暑く、乾燥のために少し動くだけで西部劇のワンシーンのような土埃が舞うハウスの中で、額に汗を浮かべながらトマトを1つ1つ丁寧に確認して収穫し、生まれたばかりの我が子を寝かせるような手つきでケースに並べていく姿がそれを雄弁に物語っていた。ハウスの中で光をいっぱいに受けてキラキラと輝くトマトの一列縦隊に魅入られた記者は、その姿に取材する前から「嗚呼、この人が作ったトマトを食べてみたい」と思ってしまったほどだ。

「私は、試験場ではイチゴが専門だったんですよ。高校を出る時に、ちょうど道の駅設立の話があって、その中の直売所の創業メンバーだった親父が、直売所の目玉になるようなイチゴを作れるようになってこいって。行かされてしまいました(笑)」

試験場で色々と研究したこともあって、島村農園のイチゴはこだわりが強い。土耕栽培で、かつ天敵を使っての減農薬栽培を徹底しているのだ。現在では決して少なくないそんな栽培方法も、当時はほんの一握りの先進農家がやっているだけ。情報は極めて少なく、減農薬はおろか各種農薬自体の影響も未知数で、何とか品質や収量を安定させるまでに10年を要したという。

「試験場からの栽培実験の依頼もあって、数年前から千葉県のオリジナル品種『チーバベリー』の栽培もはじめたのですが、最初の年は他のイチゴと同じハウスで管理したら、高温になり過ぎて大失敗。葉ばかりが青々と茂って、実がひとつもならなかったんです(笑)。だから今年は、主にトマトなどの苗を育てている、冬期でも風通しがいいハウスで試しているんですよ」

自根の苗は坪6本

島村農園のトマト畑は“自根”を採用している。

イチゴの話となると流石に雄弁な島村さんに、「トマトも、さぞやこだわりが詰まっているんでしょうね」と今回のお題の話を振ってみると、「トマトは接ぎ木せず自根でというのがこだわりですかね」と島村さん。ジコン? ツギキ? 早速、素人であることが露見してしまったが、トマト栽培では、同じナス科(トマトがナスの仲間であることも初めて知った!)の中でも、旺盛に根が張る品種の苗を別途育てて、その幹部分にトマトの苗を接ぎ木するのが収量を上げるコツで、一般的な栽培方法なのだそうだ。

「私は毎年F1の種から育てていますが、やはり自根の方が味が乗るんです。でも根の張りはどうしても譲るので、何段までしっかりと実をならせることができるのか、これは効率面でも重要なことで、心血を注いでいます」

島村さんのトマト栽培は11月~翌年の6月くらいまでで、ハウスはトマト専用にしており年一作。空いている時期に別の作物を育てることはせず、7月にソルゴなどの緑肥をうない(すき込み)、できるだけ土を休ませるようにしているという。取材日当日は一般的に一番味が乗るという2~3段が収穫期を迎えていた。トマトについては、通常は7~8段まで(誰が食べても美味しい)実をならせている。「12~13段まで上手くならせる人もいますよ」と謙遜するが、それでも自根では相当な技術なのだそうだ。

直売所のオープン前に撮影させていただいた島村さんのトマト。直売所のオープン前に撮影させていただいた島村さんのトマト。3ケースにぎっしりと入った商品は、取材が終了した13時過ぎには数えるほどしか残っていなかった

「今も親父は畑に立ってくれていて、分担して作業しているのですが、私のトマト栽培は、その親父がやっていたこと、今やっていることを目で覚えたことが基礎になっているんです。自根もですが、植える間隔もそう。現在はだいたい坪6本でやっていますが、これも親父の代からずっと変わっていません。唯一違うのは、私の代になってから、手間でも草はできるだけ手で抜いていることくらいかな。親父には『なんて手間の掛かることをしているんだ』と言われますが、除草剤を使わなくて済むから安全性が高まるし、食味にも影響してくると思っています」

収量を上げるために坪10本くらい植えるトマト農家もあるそうだが、そうするとどうしても日当たりに難が出るし、病気にもなりやすくなってしまう。対して島村さんの畑は通路も広く取られ、日当たりも風通しも抜群。家に例えるなら、すべての部屋が日当たりも風通しも良く、ゆったりと設計された廊下には凹凸が一切ないという展示場のモデルルームのような、誰もが住みたいと思える理想的な高級住宅仕様だ。前記した通り、すべてのトマトに陽が当たり、ピカピカと輝く姿は本当に美しく、美味しそうなのは当然だろう。その上、このように素人目にも健康的な、最高の環境で育てた結果、トマトは病気にもなりにくく、減農薬にもつながっているという。

美味しいトマトを作る条件

オレンジ色の中玉トマト「ちばさんさん」
「ちばさんさん」は千葉県が育成し、2019年5月に品種登録を出願したオレンジ色の中玉トマト。食味が良いだけでなく、β-カロテンやビタミンCに富むのが特長だ

現在、島村さんは甘みや酸味が強く、味がはっきりしている「桃太郎」、甘み酸味のバランスが良く味が優しい「ファースト」、そして試験場からの栽培依頼で試し、消費者に好評だったことから引き続き栽培を続けている千葉オリジナルの中玉トマト「ちばさんさん」という3種類のトマトを栽培している。取材中、収穫したばかりの「ちばさんさん」をいただいたのだが、これがまた絶品! オレンジ色の皮も果肉も見た目以上にしっかりとしていて、噛むとトマトの酸味が、一気に口の中いっぱいに広がった。だけでなく鼻を抜けた豊かな香りが、いつまでも残って幸せな気持ちになった。なかなか店頭でお目に掛かれない品種だが、見かけることがあれば絶対買うぞ、と心に決めつつ、こんな美味しいトマトを作る秘訣は何か、ズバリ訊いてみた。

「美味しいトマトにするには、ぎりぎりの水分調整や葉をかく(剪定する)ことによる樹勢のコントロールが何より大切。現在の本数にはそれをしやすいという利点もありますが、きめ細かいコントロールをすることが食味を上げる唯一無二の方法だと考えています。また、坪6本くらいなら実の状態も一目瞭然ですから、スジ(葉陰などによる青いムラ)が出ないようにするような手入れも容易。それらの作業をとにかくマメに行うことが、美味しく、見た目にも美しい、消費者に喜んでもらえるトマトを作ることにつながると思いますね」

全長5mはあろうかという巨大な神奈川肥料製「熱水土壌消毒装置」。全長5mはあろうかという巨大な神奈川肥料製「熱水土壌消毒装置」。熱水を撒くことで、土中の殺虫、殺菌の他、澱のように積もった肥料の残余物なども流せるという

そしてもうひとつ、島村さんが大事な要素に挙げるのが土だ。幸い現在のトマトのハウスは、20年ちょっとを経てもなお土が飽きると表現される、その作物に必要な養分のみが枯渇し、他の養分が過剰にある状態にはまだなっていないというが、単一種を作っている畑だけに、土をいかに飽きさせないかには日頃から気を配っているという。そして昨年は、そのための最終兵器とも言うべき「熱水土壌消毒装置」なる巨大なタンク状の機械を使って、土のリセットを図ったのだと教えてくれ、その機械を見せてくれた。

「この機械(写真参照)は、90℃の熱湯を作り、20センチ間隔で穴を空けたホースを通じて最長13時間をかけてじっくりと撒くことができるものです。昨年は、いつもの緑肥に加えて、5~6年ぶりに300坪の畑全体にこの湯をじっくりと撒きました。熱さが根腐れ線虫や細菌などを殺虫、殺菌してくれるだけでなく、水分が肥料の余剰分も洗い流してくれるので、土のリセットができるんです。そのせいか、昨年はやや不調だったトマトが今年はものすごく勢いがあって絶好調。長年やってきた親父が驚いています」

そう言って笑う島村さんの横顔は、創意工夫と地道な努力で、一歩一歩着実に階段を上り続ける農業人としての自信に溢れていて、話をすればするほどにその姿が大きく感じられた。そして、少々厚かましい話で恐縮だが、次に訪問するときにはさらに美味しいトマトを食べさせてくれるに違いない―と私を確信させた。

ちなみに島村さん、自身で一から栽培方法を確立したイチゴの話になると、途端にその口からポンポンとお宝情報が飛び出してきたのだが、それをご紹介できなかったのは口惜しい限り。今回はあくまでも、この雑誌が出る頃に店頭に豊富に並ぶトマトの話だったので大幅に割愛させていただいたが、島村農園のイチゴの話、次の機会に必ずご紹介したいと思います!

へたを綺麗に取り除いてからケースに収めていく。島村さんは、トマトに必ず2回鋏を入れ、へたを綺麗に取り除いてからケースに収めていく。積み重ねる時に傷を付けない配慮だ
綺麗に並べられたトマトは艶々と輝いていた綺麗に並べられたトマトは艶々と輝いていた

紹介してくれた産地直売所はココ!

道の駅 やちよ 八千代ふるさとステーション 農産物直売所

(農業組合法人 クラフト)
千葉県八千代市米本4905-1 Tel.047-488-3188

「道の駅 やちよ」「道の駅 やちよ」は、他に地元酪農家直営のアイスクリーム店やレストラン、土産物店なども入っている複合施設だ。営業時間9:30~18:00(10月~2月は、~17:00)

島村さんのトマトをご紹介したいと思ったのは、単純に人気があるから。これは、直売所はどこでも言えることなのかもしれませんが、当店では「○○さんのトマト」という指名買いも多く、島村さんのトマトはいつでも1、2を争う人気ブランドなんです。当店では、少しでも商品に多くの手が触れないよう、また契約農家さんの作業効率を考えて敢えて納品していただくケースのまま商品を陳列するスタイルを採っているのですが、各々のケースに農家さんの名前が大きく書かれていますから、遠くからでも誰の野菜かすぐに分かってしまう。ああ、今日も島村さんのトマトは無くなっちゃったかって、いつも見ています(笑)。実は私の家も40年近くトマトを栽培していたのですが、そんな私をしても島村さんのトマトに見られる技術の高さはスゴイ。農家って自分の栽培方法に固執しがちですが、加えて現代表の隼人くんは方向転換する勇気とセンスを持っていて、毎年色々と試行錯誤しながら、より良い品物を作ってくるから驚かされます。ちなみに島村さんのイチゴも入ればすぐに無くなる人気商品なんですよ。(代表理事 周郷 崇さん)

開店直後の店内。開店直後の店内。約100軒の農家と契約し、地元八千代産をはじめ、多くの生鮮食品が並ぶ。ケースのまま陳列されると、より鮮度の良さが感じられるから不思議だ
島村さんは化粧箱入りのトマトも出荷している。島村さんは化粧箱入りのトマトも出荷している。袋入りの通常品同様に人気があって、撮影時にも決して安くない最上級品にもかかわらず次から次へと売れていった
代表理事を務める周郷 崇さん代表理事を務める周郷 崇さんは、直売所に出荷している梨の生産者でもある。「現在は理事も務めてくれている島村さんから『いずれはクラフトで人を雇用して、休耕地を使って農業をしたらどうか』という提案があったのですが、地元の農家を守っていくためにもすごくいいアイデアだと思うので、是非実現したいと考えている」と語る

※この記事は「産直コペルvol.47(2021年5月号)」に掲載されたものです。

この記事を書いた人
産直コペル 編集部
この記事は、産直新聞社の企画・編集となります。