直売所

【直売所訪問記】弘前の味が集まる! 地域住民に農産物・漬物を 豊富に供給ーーJAつがる弘前「四季彩館」(青森県弘前市)

店の発展と世代交代の先頭に立つ木田店長

弘前の市街地から津軽のシンボル岩木山を目指して、リンゴ畑と水田の中をまっすぐに走る県道3号線弘前岳鯵ヶ沢線。その沿線の旧岩木町地区に、JAつがる弘前が運営する産地直売所「四季彩館」がある。この県道は、シーズンともなると名物の「嶽きみ(トウモロコシ)」を求める車でごったがえす、その名も「嶽きみ街道」。同店は、その入口にあたる場所にあり、存在感を示している。

売れ筋は、地元産の野菜・米・リンゴ・加工品。特に漬物の人気が高い。「岩木地区は漬物上手が多く、他地区からもお客さんが来てくれる」と同JAの直販課店舗係長の吉崎浩美さん。四季彩館の若き店長木田馨さんと共に同店の特徴と課題を話してくれた。(文・毛賀澤明宏)

※青森県・秋田県・岩手県の北東北3県では、農産物直売所のことを「産直」と呼ぶ。本記事では、それに倣って「産直」という呼び方を使用する。

地元の農産物が多く出荷人気集中で品薄傾向

鮮度の良い、つやつやした野菜が棚に並ぶ

売れ筋はなんと言っても季節の地元農産物。売り場の広さは中規模程度だが、所狭しとばかりに野菜・果物が並ぶ。しかもどの野菜も新鮮かつキレイ。そのことからだけでも、客足の多さ、出荷者の意欲、売上規模の大きさが感じられる。

秋の収穫期などになると従来の店舗内の農産物売り場では収まり切らなくなり、建物の外に特設売り場が登場する。特に晩秋は、大根や赤カブ、白菜など「漬け野菜」が大量に並ぶことも特徴。昔ながらの繁盛する産直店の情景がそのまま生きている感じだ。

晩秋の収穫期には店舗の外に特設売り場も設けられる

これを支える出荷会員は、加工品出荷者も含めて現在約130人。そのうち半数の75人程度が農産物の出荷者だという。出荷意欲も高く、店側の要望にもよく応えてくれるそうだ。

農産物の質の良さと価格の手ごろさから多くの客が朝から詰めかけるが、そのニーズが大きいため、開店後しばらくするとほぼ売り切れてしまうのが現在直面している最大の問題。出荷会員を増やすために、チラシを配ったり口伝で募集したりしている真っ最中だという。どの時期、どの農産物が、何時くらいに売り切れてしまうのか│つまり、現状の入り客状況で、何をどのくらい出荷を増やして欲しいのかを具体的にデータで示して、モノとヒトを増やさないといけないであろう。

手作り漬物は質・量ともに青森トップクラス

色鮮やかな様々な種類の手作り漬物が並ぶ

同じことが手作り加工品、特に漬物についても言える。

青森県の産直は、どの店舗も総じて漬物が充実しており、大きな陳列スペースを占めているが、この四季彩館はその代表格。大きな冷蔵ケースに収まり切らないほど漬物が並んでおり、その量と美しい色合いに、行くたびに驚かされる。

青森県をはじめ北東北地域では、産地直売施設における漬物販売について、製造者が保健所に届け出る「届け出制度」で行われてきた経緯があり、文字通り、農家のおばちゃん(おじちゃんもいるだろうけれど)の手作りの味が店に並びやすかった。漬け手により味が違い、色が違い、楽しく食べ比べることができたのも漬物王国・青森の楽しみだった。 

ところが、この漬物王国にも作り手の高齢化の波が押し寄せてきているだけでなく、何より、食品の衛生管理手法HACCPの義務化によって、従来の漬物の製造販売の在り方を抜本的に見直さなければならなくなっている。HACCPへの対応の大変さから、「これを機会に卒業する」というベテランの漬け手が目立ってきている。この問題の根本的打開も、「漬物王国」四季彩館にとっては避けて通れない問題なのである。

この地域特産の「嶽きみ(嶽のきみ)」(岩木山山麓のトウモロコシ)も人気

若い店長を先頭に、出荷農家・加工事業者の世代交代を

産直入口横には市場直送の魚を焼いて販売する店も。めちゃくちゃ庶民的で明るい

農産物・漬物の他に、弁当・総菜も売り上げの大きな部分を占めている。弁当・総菜はいろいろな人が出荷するが、「おにぎりの会」という名の有志グループが、四季彩館の施設を利用して、力を合わせて製造しているのも特色ある取り組みである。漬物もそのような形にできないか?―それも一つの検討事項であるようだ。

四季彩館は、JAつがる弘前が経営する4カ所の産直のうちの基幹店であり、青森県の産直の中でも売上規模の大きな方である。この産直の経営において―これまで見てきたように―、品揃えも客足もそれなりに充実しているとはいえ、商品不足と出荷者の減少という根本的な問題が深部に横たわっている。

このような状況を打開していくために「木田店長をはじめとして、若い産直スタッフの発想・感性を大切にしていきたい」と吉﨑係長は話す。

「出荷者の皆さんは、親子どころか孫ほど年齢が違う方も多いのですが、相談すれば皆さん何でも答えてくれます。先輩たちの経験に学びながら、今風に変えられるところはどんどん変えていきたいと思っています」と、木田店長も積極的だ。 

津軽の空は大きく明るい。まだまだ、出荷者が元気なうちに、産直の次の世代に向けたバトンタッチを上手に進めるならば、これからも、産直王国・漬物王国として在り続けるであろう。

JAつがる弘前 四季彩館

〒036-1331
弘前市五代字早稲田508-3
TEL:0172-82-5000
HP:http://www.ja-tu-hirosaki.jp/publics/index/135/

※この記事は「産直コペルvol.56(2022年11月号)」に記載されたものです。