農と食

やたらと旨い「ぼたんこしょう」(vol.25)

やたらと旨い「ぼたんこしょう」

ある人は牡丹の花のようだと言い、ある人は獅子の面のようだと言う。また、ある人は辛いと驚き、ある人は甘いと微笑む。

何のことかというと、とあるトウガラシ在来品種の話なのである。長野県の北信地方、中野市(旧豊田村)や信濃町には、古くから栽培利用されている「ぼたんこしょう/ぼたごしょう」(以降、本稿では「ぼたんこしょう」と表記)という品種があり、長野県の「信州の伝統野菜」にも選定されている。

牡丹の花のような姿から

この品種は、一般にイメージされる細長いトウガラシの果実型ではなく、むしろピーマンやパプリカに似たずんぐりした型をしている。果実表面には深い皺というか溝があり、その皺が果実の先端に向けて折り重なるようになっていることから、その姿が「牡丹の花」のように見える、ということで、中野市では「ぼたんこしょう」と呼ばれ、お隣の信濃町では少し変わって「ぼたごしょう」と呼ばれているのだ。

非常に似た品種に新潟県中越地方在来の「かぐらなんばん」がある。この品種もぼたんこしょうと同じような形の果実ではあるが、中越の皆さんは、その果実先端を牡丹の花とは見ずに、お神楽の獅子のお面に似ているということで「かぐらなんばん」と呼ぶようになったとのことだ。

特徴は〝辛味〟

さて、先ほど、ピーマンやパプリカに似た形と書いたが、この品種はピーマンやパプリカとは異なり、辛味を持っていることが特徴的だ。この形にしてこの大きさのトウガラシで辛味を持っている品種は、日本では長野県と新潟県の他にはない。おそらく、初めて見る人はピーマンやパプリカの仲間と思って、辛味があるなどとはみじんも思わないだろう。

辛味があるといっても、実際に果実全体を乾燥粉砕して辛味成分カプサイシンの機器分析をしてみても、一味や七味に使う三鷹などの品種に比べ、4分の1程度かそれ以下しか含まれていないことが分かる。しかし、辛くないと油断して食べたときに辛かったという心理的な影響や、果実の食べる部分によっては実際に辛味が強いことから、かなり辛味の強い品種だと誤解されている方もいるようだ。

トウガラシの辛味成分であるカプサイシンは、果実内の空洞を分けている壁のような組織「隔壁」で作られ蓄積されているので、ぼたんこしょうのように大きな果実だと、辛い部分(隔壁)と辛くない部分(果皮、ピーマン、パプリカなどで通常食べる部分)がはっきり分かれていることになる。

そのため、食べる部分によっては果実全体で測った実際の辛味成分含量よりも激辛に感じてしまうのだ。逆に、調理するときにその隔壁の辛い部分を取り除けば、辛味をある程度は調節できる品種でもある。

辛味と旨味を兼ね備えた美味しい品種

見かけによらず辛味を持っているぼたんこしょうではあるが、辛味があると同時に、甘味、旨味も兼ね備えた美味しい品種である。

我々の研究室で、ぼたんこしょうの味に関連する成分であるブドウ糖や果糖といった糖分、グルタミン酸などの含量を計測してみたところ、一般的なピーマンより高い傾向にあることが分かった。その美味しさは科学的にも証明されている訳である。

この辛味と甘味を活かして、ぼたんこしょうの栽培地域ではさまざまな伝統的な郷土料理が作られてきた。例えば「やたら」。

切って混ぜるだけ 郷土食「やたら」

「やたら」とは、夏野菜のみじん切りをご飯にかけて食べる、言わばフレッシュなふりかけである。

地域

ABOUT ME
松島 憲一
信州大学学術研究院農学系准教授。博士(農学)。専門は植物遺伝育種学でトウガラシやソバなどの遺伝資源探索、遺伝解析、品種改良および民族植物学的な研究を実施している。また、それら研究を通して地域活性化についての支援もしている。信州伝統野菜認定委員。