直売所

【Topic! 農業に新規参入した企業が、地域の道の駅と提携!】“地域を経営する”取り組みがはじまる。

長野県阿南町にある「興亜エレクトロニクス」の子会社「あさげの里」と、同町で道の駅や農産物直売所を運営する「蔵」が業務提携。あさげの里が、「道の駅 信州新野千石平 蔵」などに地産の農作物を出荷するほか、県内外での物産展などでも協力していくという。(文・中村光宏)

道の駅 信州新野千石平 蔵のエントランスを背景に、右は株式会社 蔵の金田三千男社長、左は株式会社あさげの里の小池宣貴社長

人材が確保できない

長野県阿南町に本社を置く電子部品メーカー「興亜エレクトロニクス」が、地域を支える取り組みの一環として農業を専門とする子会社「あさげの里」を設立したのは2020年12月のこと。以来、地域に広がる耕作放棄地の開墾や高齢化などにより耕作の継続が難しい農業者の受け皿となり、社員が自らの手で土を、そして作物を育ててきた。

現在は町内に3町歩(約3ヘクタール)の圃場を管理し、阿南町の特産品である「甘太郎」や「あんみつ姫」、「かか様」などのトウモロコシを筆頭に、興亜エレクトロニクスの社員が無料で持ち帰ることができる多種多彩な野菜、町にふるさと納税への返礼品用として納入しているコメ(コシヒカリ)などを栽培している。

しかしなぜ、電子部品メーカーという、“農”とは正反対にも見える業種の企業が農業に参加したのだろうか? そのきっかけを、あさげの里の代表取締役社長を務める小池宣貴さんは、「当初は、若者の都市部への流出により興亜エレクトロニクスが人材を確保できなくなっていく将来リスクへの対応がはじまりでした」と語る。さらに、いかにして人材を確保するかを考えた時、やはり町を魅力的なものにして活性化させ、流出を食い止めるだけでなく、Uターンしてもらい、できることならIターンをも誘おうという考えに行きついたのだという。

今回、両社が結んだ業務提携書。これからの阿南町にとっても大きな1歩であり、飛躍へのパスポートだ

電子部品メーカー、農業に参入!

しかし、今まで会社として本格的な地域振興を事業として展開したことなどもちろんない。そこで、興亜エレクトロニクスとしてどのようなことができるのか、どのようなことをすべきかを社内で検討。人口流出や農業者の高齢化により拡大し続ける町内の耕作放棄地を蘇らせ、豊かな里山を作り上げることが、地域活性化の近道で、魅力的な街づくりに直結するとの結論に至ったという。そしてそのプランは、同社の仲藤社長(当時。現在は会長)と阿南町の町長のTOP会談を経て無事に町(=行政)の賛同を得ることができ、実行に移される運びとになったのだ。

現在、あさげの里には12名のスタッフが在籍する。その内、農業に従事するのは7名。残りの5名は、竹細工やわら細工など、同じく高齢化や継承者不足に悩む南信州の伝統工芸を引き継ぎ、未来に繋ぐべく熟練の職人から学んでいる。彼らはただ技術を引き継ぐだけでなく、「彼らの腕が売り物になるレベルに達したら」(小池社長)、その作品が地域を代表する伝統工芸品として店頭に並び、世に出ていくことになる。

あさげの里の女性スタッフがドローンの免許を取得。現在は農薬散布などに使用しているという。こうした最先端技術やスマート農業の導入なども企業ならではのスピード感がある。「慣行農業だけではく、今後は豊かな、魅力ある里山づくりのために有機などにも挑戦したい」と小池社長

「魅力ある里山づくりのための両輪が農業の復活と伝統工芸の伝承。私たちは、この2つを通して、単なる農業経営ではなく、活性化させるべく。阿南町と足並みを揃えて地域を経営しようとしています」と、小池社長は力強く語ってくれた。

町の顔である老舗道の駅

そんな、新しいムーブメントが起きはじめた阿南町には、地域の交流拠点としても機能している、設立23年目の道の駅がある。それが長野県最南端を謳う「道の駅 信州新野千石平 蔵」だ。この老舗道の駅には、夏の週末ともなると名物のトウモロコシや桃などを求めて、遠く静岡や名古屋からも観光客が押し寄せる。町が資金を投入して建屋も拡充。かつての豪商の蔵のような店構えは、今や町の顔と呼ぶにふさわしい施設だが、同店もまた、高齢化が問題になっている。

「道の駅 信州新野千石平 蔵」
名物の「幣束御幣餅」や自然醸造の手作りこうじ味噌なども人気。道の駅 信州新野千石平 蔵ショッピングサイト(http://goheimochi.biz/)でも購入可能だ。
長野県下伊那郡阿南町新野2700 TEL:0260-24-2339 営業時間:9:00~17:30 年中無休

出荷者である農家が高齢化している現実は先に述べたが、蔵のスタッフも創業当時40代の働き盛りだった人が60歳を超えるに至って、商品不足、スタッフ不足に喘いでいた。「静岡県の要請で出張イベントを開催したり、愛知県内に月2回のペースで出張販売をしてきた」(株式会社 蔵 金田三千男社長)ことで、観光客が増えているにもかかわらず品物は減る一方。当初は地産にこだわっていた品揃えを、隣町の飯田市をはじめ長野県全域から仕入れるようになってもなお、品物を充足させるには至らなかった。

「そんな時、あさげの里との出会いがあったんです。私たちは複数の店舗を持っており販売チャネルはある。一方、あさげの里さんは企業として若い人たちを動かし、農産物を生産する力、町を良くする力を持っています。話をすればするほど、町の魅力創出まで考えてくださっている小池社長なら、同じ価値観を持って一緒にやっていけると感じました」(金田社長)

当初は、農業や地域活性化に最先端の電子部品企業が参入することを疑問視していた金田社長だったが、すぐに撤退するわけでもなく、立派に農産物をつくっている同社とその目的に共鳴。そんな両社が提携を模索するのは自明の理だった。

店頭に並ぶトウモロコシは、「甘太郎」「あんみつ姫」「かか様」など3種類。あさげの里をはじめ約30軒の生産者が出荷している

何をつくっても成功する地

去る7月20日、道の駅 信州新野千石平 蔵に両社の社長が揃い、業務提携が発表された。その内容は、農産物の道の駅への出荷に留まらず、「まだ実験ベース」(小池社長)ではあるが、県内外で物産展などを企画。販売にはあさげの里のスタッフも加わって、観光誘致も視野に、地域おこしの一環として実施していく予定だという。

「阿南町に来たくなる、いや来ないと楽しめないようなイベントや、来てくださったらこんなに楽しめるんですよ、ということをご理解いただけるイベントをどんどん企画していきます。今後はより深く行政にもかかわっていただいて、地域に必要なインフラも整備し、観光需要を掘り起こそうと思っています」(小池社長)

「この道の駅のある辺りは海抜800メートル。これは、昨今言われている地球温暖化の中においても農業に適した、何をつくっても成功するといわれている高さなんです。例えばトウモロコシは、現在は7万本を出荷する町の特産に成長し、とにかく甘くて美味しいとご好評いただいています。では次に何をしようか、ということで、今かんがえているのはブドウ。そしてワインづくりです。すでにいくつかの農家でブドウ栽培ははじめていて美味しいブドウが採れているのですが、いかんせん次世代の担い手がいなかった。この提携によって、そういった新しい産業も町に創出できるかもしれません」(金田社長)

甘さが際立つ茹でトウモロコシも大人気商品。その場ですぐに食べられるのも嬉しい

「あさげの里」が、当座の目標としている圃場面積は10町歩(約10ヘクタール)。現在の面積から3倍強に拡大する同社の圃場で働く若いUIJターン就農者と、彼らを中心とした町の新しいコミュニティが阿南町に活力を呼び戻してくれる日は、そう遠い日ではないかもしれない。

※本稿は、2022年7月20日、長野県阿南町の「道の駅 信州新野千石平 蔵」での記者会見の取材をもとに構成したものです。

この記事を書いた人
産直コペル 編集部
この記事は、産直新聞社の企画・編集となります。