特集

【特集 直売所から脱プラスチックを考える】竹細工とともにあった生活から「脱プラ」を考える 松本みすず細工

地域に根差した植物で作られ、古くから生活必需品となっていた品々がプラスチックに代用されるようになって久しい。びく、かご、ザル、衣装行李などに見られる、竹細工もその一つ。今回訪れたのは、長野県松本市のスズタケを使用したみすず細工の工房。以前の暮らしは、こんなにも竹で作られていたのかと驚くほど、今ではプラスチックで見慣れている道具の数々を見て、竹がいかに人々の生活に組み込まれていたのかを知る。みすず細工を守っている、松本みすず細工の会  小田詩世さんにお話を伺った。(文・羽場友理枝)

松本のみすず細工

松本みすず細工の会の作品。松本民芸館の売店などで購入できる

少し暑さの残る秋晴れの中、風鈴の音と鈴虫の声を聞きながら伺ったのは長野県松本市にある松本みすず細工の会の工房だ。中に入ると3名の職人さんが各々制作に励んでいた。みすず細工は、この地域でもともと採れていたスズタケ(松本市では「みすず竹」と呼ぶことも)という笹を使用し、農家の副業として始まったそうだ。最盛期の明治30年代には海外輸出もされ、スズタケの問屋やみすず細工を扱う問屋も10数軒あり、松本地域の一大産業だったという。「松本地域はみすず細工があったおかげで、農家が出稼ぎに外に出なくてよかったそうです」と小田さん。みすず細工がどれほど地域経済を支えていたかが伝わってくる。いま、竹細工製品といえば、工芸品として売られていたり、直売所の片隅に置いてあったり、「こだわりのある生活」を求める人が手に取る特別なもののように思う人も多いかもしれない。地域の一大産業だったという、現代との違いに違和感を覚えつつ、その当時使われていた品々を見せていただいた。

 「竹細工は昔から当たり前のように使われていたので、今は職人さんがいなくて、貴重なものなのにそれに気づかず、蔵を壊すときに捨ててしまう人が多いんです。貴重な資料なので、古道具屋さんで見つけては買ってきて保存しています」。そう、言いながら小田さんが見せてくれたのは、びく、ざる、タバコケース、文箱、衣装行李、海外で人気だったというがまぐちバッグの復刻版、かばんなど、生活のあらゆる場面で使用されるものだ。お店ではビールかごやオカモチもみすず細工で作られたものを使用していたという。びくだけでもキノコびく田植えびく、豆びく、魚びくなど種類の豊富さに驚く。今では、ビニールやプラスチック製品、ダンボールで代用されているものの多くが竹で作られ、使われていたのだ。松本地域の出荷物の8割を占めていたという衣装行李も、たしかに、現在衣装ケースといわれて思い浮かぶのはプラスチックでできたものだ。私達の生活が、見かけ上の便利さの陰で、知らず知らずのうちにエコな暮らしを手放してきたことがうかがえる。

復活したみすず細工

松本みすず細工の会の会員の村木光郎さん

知らず知らずに生活が変わっていく中で、2009年、みすず細工の最後の職人が亡くなり、みすず細工は一度途絶えてしまった。みすず細工の復活のため、小田さんたちが集まったのは最後の職人が他界した2年後。松本市が職人を育てるプロジェクトを開始したことに端を発する。小田さんは、大分県別府市で真竹細工をしていた経験もあったが、他の人はみすず細工はおろか、竹細工に詳しい人もいないという、本当に手探りの状態からのスタートだったそうだ。職人が残してくれていた実演ビデオ2本と文献からの研究や、同じスズタケを使用する山梨県や岩手県の竹細工の産地に赴き研究を重ねたという。

 松本市のプロジェクトは1年で終了し、その卒業生と新たなメンバーで立ち上げた松本みすず細工の会の活動が現在も数名で行われている。工房は松本市で最後の職人が作品を作っていた場所を、職人の奥さんのご厚意でお借りし、毎日3名はこの工房に集まり、作品を作っている。「最盛期とは違い、これだけで食べていくことはできないのが現状ですが、この技術を絶やしてはいけないと思いますね」と力を込めて話す小田さんの言葉に、職人がいなくなることは、この地域の伝統的でエコな暮らしを手放すような、そんな感覚に陥った。

 ちょっと不思議な竹の話

採ってきたスズタケはすぐに割って天日干しする

 原料のスズタケが竹細工になるまでには、いくつかの行程がある。まずは、山に行きスズタケをとってくる。一度山に入ると1人500~600本を刈り取ってくるそうだ。その後、竹を割って皮をはいで磨きヒゴにして、その竹を編むそうだ。

 「竹、笹といわれる種類は世界で1200種ほど、日本には600種ほどあるといわれています。しかし、竹細工として長野県松本市や伊那市、山梨県、岩手県などで使われるスズタケ、戸隠で使われる根曲竹、関東から鹿児島で使われる真竹などはどれも表面に光沢があって美しく、日本人の美意識なのか竹細工として使用される竹は光沢のあるものが多く、限られたものです」と小田さんは話す。そんな限られた竹の中でも、最近はスズタケの入手が困難だそうだ。竹の生態は不思議で、60年や120年に一度花が咲くといわれている。人間の一生よりも長いため、継続的に研究している研究者も少なく、未だに謎が多い植物だそうだ。花が咲くと、その山一帯の竹が一斉に枯れてしまう。「ここ数年、全国的にスズタケの開花が始まっていて、枯れてしまうと商品に使えないので、スズタケの入手が更に困難になっているんです。スズタケの採取場所もどの産地の方も言わないようにされてます」と、小田さん。竹の開花は、環境変化に対して種を守る進化のために起きるという説も一説にある。近年続く、猛暑や豪雨など自然の変化をスズタケは感じとっているのかもしれない。

 伝統の復活から生活まで

お店で実際に使用されていたビールかご(左)とみすず細工メンバーが作った復刻版。宴会などでビールを運ぶ時に使われた

「竹細工って、時間が経つと色が深くなっていってそれも魅力なんです。今後は、昔作られていたものはすべて作ってみたいです」と小田さんは微笑む。最近みすず細工の会へは、ビールかごやアタッシュケース、オカモチなどの注文も入っているそうだ。戸隠の職人が作っていたコーヒードリッパーも村木光郎さんがまねて作ってみたという。

 何気なく、プラスチックは安くて軽く、持ち運びしやすいと思っていたが、耐久性があって、軽くて、時が経つほどに味が出る竹細工がこんなにも魅力的な物だったのかと驚く。耐久性、強度、環境を考えるとプラスチックを選ばなくてもよい場面は多々あるのではないだろうか。農産物直売所には、時折竹細工、わら細工、昔ながらの商品が並ぶ。このみすず細工しかり、一度消えてしまった伝統を作り直すことは容易ではない。しかし、きっと気づかれずに消えている地域文化もあるのだろう。農産物直売所でも見かける工芸品の中には地域のことを物語る商品があるかもしれない。地域にある資源を使って作られたそれらに脚光をあてることで、全く知られていなかった状態から、興味がもたれて購入する選択肢に上る状態までもっていけたら、短期間で買い替える必要のあるプラスチック製品ではなく、生活の中で長い時間かけて楽しめる工芸品を選ぶ感覚を、農産物直売所は提案できるのかもしれない。

※この記事は「産直コペルvol.38(2019年11月号)」に掲載されたものです。

この記事を書いた人
産直コペル 編集部
この記事は、産直新聞社の企画・編集となります。