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【特集 シェフが求める直売野菜】レストランとの取引どうしてる? 生産から販売まで担う 農業法人株式会社アスカグリーンファーム

和歌山県との県境に位置する奈良県五條市。吉野川の畔に拠点を構えるアスカグリーンファームは、五條市と大和高田市で2店舗の農産物直売所を運営している。その傍ら、直売所の商品となる作物を生産し、レストランとの取引も活発に行っているという。どのように運営されているのか、取締役事業部長・農薬管理指導士の鈴木嘉美さんにお話を伺った。(文・羽場友理枝)

アスカグリーンファームの直売所

「直売所としては、かなり後発です」。そう話すのは農業法人株式会社アスカグリーンファーム取締役事業部長の鈴木嘉美さんだ。奈良県五條市の「自然と柿の里ファーム」の初代店長、大和高田市の「片塩楽市」の店長も務めている。アスカグリーンファームは、奈良県で大手のビル管理会社アスカ美装グループの農業部門として2004年にスタートし、ソーセージの製造や希少な国産きくらげの製造販売、大和野菜、いちごの生産販売、直売所運営、コンサルタントなどを行っている。もともとは通販会社を運営していたという鈴木さんは、あるご縁からアスカグリーンファームに入社することとなった。「はじめは3年と言っていたはずなのに、気づいたら9年もいる」と笑う鈴木さん。当初は店長として店頭に立っていたそうだ。

「奈良県内の直売所で売れているお店は、どこも必ず名物店員、名物店長がいるんです。直売所としても後発で小さなお店が生き残るには自分が名物店長にならないといけないと思った」と話す。スタッフにも、生産者だけでなく、お客さんの名前まで覚えるように指導していた。特に試食を大事にしており、食べてもらって納得して買ってもらうことを心がけていた。「結果的にはね、名物店長になってたと思う。こんなに『食え食え』いう店員もいなかったしね」と鈴木さんはいたずらぽく笑う。

商品が出てこない……から始まった、生産体制

多くの直売所で課題となっている担い手の高齢化や、冬場の商品不足。露地栽培の多い奈良県五條市でも同じ課題があり、アスカグリーンファームでは商品を自ら生産することで対策を打つことに決め、鈴木さんも7年前に生産部門に加わった。自分で作るようになったことで、野菜のことがよくわかるようになり、接客にも活かせているそうだ。「直売所では、出荷してくれる生産者のものがまず先に売れてほしいと思っている」。あくまで、生産者の商品が主役で、お店が寂しく見えないように自分たちの生産した食材を置いていると鈴木さんは話す。価格も、他の商品よりも割高につけているそうだ。「私たちが生産するものは無農薬でこだわりがある。直売所で販売してみて奈良県で売れるものと大阪で売れるもの、お客さんのニーズの違いも見えてきたね。自分たちの商品はこだわりを評価してくれる場所で売って、直売所ではお店の見た目の寂しさを埋めて生産者の商品がより売れるようにと考えた結果、飲食店との取引も増えていった」と鈴木さんは話す。直売所という生産者の活躍の場を維持しながら、運営を支える手段の一つとして飲食店との契約もでてきた。

こだわりは味!

しぶそばのホームページに掲載されている大和まなのかき揚げそば(6月7日時点)

鈴木さんのこだわりは無農薬・有機肥料で甘く美味しい野菜を作ることだ。味に絶対的な自信があるからこそ、「まず食べてみて!」と生のままでの試食を勧める。取材に訪れた時にも「スナップぐるめ」というスナップエンドウを生でいただいたが、甘く、ジューシーで野菜ということを忘れてしまうほどだった。アスカグリーンファームでは、農薬散布が約10回以上必要とされるいちごも、無農薬で栽培しており、美味しさと安全性から、いちごの出荷があるとなると、梅田の販売では売り場に並べる前から買い占めの電話が鳴るほどだ。そうした試食ありきの接客スタイルと、味へのこだわりからシェフ同士の間で口コミで広まり、現在では直接やりとりするシェフは30人ほど、中には「つるとんたん」で知られるカトープレジャーグループやしぶそば、ディーン&デルーカ、ガーブモナーク、すかいらーくグループでの野菜使用もあり、取引のある店舗数でいえば数十か所に上る。

生産段階から浮かぶシェフの顔

これほどにシェフから選ばれる理由は味だけだろうか。もちろん鈴木さんの人柄を置いては語れないが、生産している作物の種類にも理由がある。鈴木さんが生産するのは、料理の飾りになるような美しい野菜や奈良県の伝統野菜である大和野菜だ。種類は豊富で、年間100種類近くの作物を栽培する。「たくさん市場に出回る野菜は、市場から買ってくれればいい。味と珍しさを追求し、それを評価してもらえる人にその価値を届けたい」と鈴木さんは話す。出荷準備をする野菜たちを眺めながら、「この野菜はAシェフが好きそうだ、これはBシェフが喜ぶだろうな……」と楽しそうに話す鈴木さんに思わず笑みがこぼれた。

レストランと取引する良さと難しさ

「全量買取もよくあるから、売り先が確実に見えていると、野菜を作っていても張り合いがあるよね」と鈴木さんはいう。ひもとうがらしは料理で使えるジャンルが幅広く、ホテルなどの和食、洋食、中華全て揃っている取引先では特に人気だそうだ。

シェフとの会話も、次につながる情報源になっている。「例えば、奈良県の伝統野菜大和まなをかきあげで食べる方法を教えてもらって、そういう使い方もあるのか!と思ってお客さんにも伝えてみたら、また別の契約に繋がったり。この野菜でできるなら他のものではどうだろう……別の提案方法もあるなと想像が膨らむ」と鈴木さんは話す。シェフからも「この野菜はどう食べるのが一番おいしいか」と必ず聞かれるそうだ。お互いに情報を交換しながら、取引を続けている。

レストランと取引をするうえで難しいのは、やはり安定供給だ。創作料理や個人のお店であればメニューに融通が利くこともあるが、店舗数や客数の多い大手では1カ月など長い期間安定的に野菜を供給できなくてはならない。しかし、その一方で大手の契約が取れれば、1カ月近く売り先が決まることになる。レストランとの取引は難しさもあるが、お互い良好な関係性を築くことができれば運営の大きな助けとなる。

レストランへの出荷、次の展開……

レストランへの出荷の次は、どんな展開が考えられるのだろうか。アスカグリーンファームでは、野菜を出荷していたカトープレジャーグループから畑の監修依頼がきたそうだ。店舗の庭に畑を作り、そこで採れた作物を料理に使用する。お客さんは食材が育っている様子を見ながら、安心して食事をすることができるそうだ。この取り組みは、兵庫県神戸市の「LAMP HOUSE」で今年から始まった。「県をまたいでいるから準備は大変だけどね、好評で、今後京都でもお願いされているし、求められてはいるのかもしれない」と鈴木さんは話す。レストランへの食材出荷から更なる展開もあり得るのかもしれない。

もし、レストランとの取引をスタートさせたかったら

まずは、年間の出荷予定表を作成することが重要だそうだ。「鮮度か、味か、見た目か」何を特色にした野菜をどの程度の量作っているかを伝えたうえで、売価をどのくらいにしたいか話をする。

個人のお店であればメニューは当日の仕入れによって変えることができるかもしれないが、少し大きな店になってくればメニューは1週間や1ヵ月ごとに決まっている店も少なくない。メニューを考えるシェフにいつ頃にこんな野菜が出せると事前に知らせておけば使ってもらえる可能性も大きくなるし、シェフも計画が立てやすい。

マルシェや直売所を利用している人であれば、お店で試食やPOPを使って味見してもらったり、知ってもらうことも重要だ。

長く使ってもらいたいのであれば、この時期は欠品しませんという作物を用意したり、量はなくても大量にできた時にまとめて買ってくれるような売り先など、相手との関係性でさまざまな売り先を作っておくことがポイントだそうだ。

アスカグリーンファームでも、初めから品数が100種あったわけではなかったが、大和野菜と味を売りに、大和野菜と旬の野菜が数種類ずつ必ず出荷予定表に組み込めるようにしているそうだ。

※この記事は「産直コペルvol.36(2019年7月号)」に掲載されたものです。