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【特集 直売所の新世代リーダーたちに聞く】「予想を裏切り、期待に応える!」 産直を若者の選択肢のひとつに~岩手県一関市「街なか産直 新鮮館おおまち」

 商店街ににぎわいを取り戻し、地域を元気にしたいーそんな思いをもつ地元有志らの出資で発足した一関まちづくり株式会社が2005年、事業の柱として立ち上げたのが「街なか産直 新鮮館おおまち」だ。この店を束ねる店長で、同社専務取締役を兼任する梁川真一さん(42)に、店の元気の秘訣と、自身が実践する産直運営について聞いた。(文・上島枝三子)

街なか産直 新鮮館おおまち 梁川真一さん 1979年、岩手県一関市生まれ。一関まちづくり株式会社専務取締役、街なか産直 新鮮館おおまち店長。東北の厳しい冬も、野球で鍛えた持ち前の身体と体力で駆け回る

はじめまして、梁川です!

岩手県一関市のほぼ中心部、JR一ノ関駅からわずか徒歩5分の商店街、銀行やパチンコ屋と軒を連ねた全国でも珍しいロケーションに「新鮮館おおまち」はある。特産は、夏はトウモロコシ、秋冬はリンゴ、曲がりネギなど、一関市全域から新鮮な農産物を集める。従業員は9人、出荷者は業者も含め約460人、2021年の売上実績は年間約1億6900万円。コロナ禍で多少落ちているというが、それでもここ10年で売り上げは10%増し、出荷者も100人ほど増えているという元気な産直だ。

「はじめまして、梁川です! よろしくお願いします!」

はつらつとした笑顔と張りのある声につられて、こちらも思わず背筋が伸びる。店舗スタッフの中でも最年少だという梁川さんは、今年入社8年目。4年前に店長職に就いてから、さまざまな改革と挑戦を重ねてきた。近年では、2020年にスタートした「いちまちデリバ!」と名付けたデリバリーサービスが代表例だ。地元タクシー会社と不動産会社と協働で、商店街の商品を消費者に届ける買い物支援的サービスの一方で、出荷困難な生産者への集荷フォローや宿泊施設への食材の配達など、新鮮館おおまちの運搬業務を担うものだ。

タクシードライバーによるデリバリーサービス「いちまちデリバ!」
スマホのアプリから簡単に注文できる

「元々は、コロナ禍で落ち込んだ飲食店さんを応援しようと始めたサービスですが、うちの会社のロジスティクス(物流)の部分をタクシー会社さんと一緒にできたらという狙いがあります」

昨年の母の日には、タクシードライバーによる花の宅配を行い、評判も上々だったという。コスト面で課題はあるものの、検証に検証を重ね、行政の支援なども受けながら本格的な運用に乗り出そうとしている。

「主役は生産者」チームでPR

もう1つ、特に力を入れているのが「広報」だ。新鮮館おおまちでは、〝主役は生産者〟をテーマに、WEBサイト、通販、Facebook、インスタグラム、ふるさと納税とさまざまなツールで情報発信を強化している。店の公式アカウントはもちろん、梁川さん個人のアカウントもその対象だ。ページにアクセスしてみると、店頭のおすすめ商品のほか、生産者の畑に頻繁に足を運び、野菜の栽培方法からこだわり、人となりまで丁寧に伝えている。記者顔負けの取材に驚いたと伝えると、実は書いているのはライターの卵で、昨年1月から地元企業とタッグを組み「広報チーム」として活動しているのだと教えてくれた。

戦略を練る広報チーム。うち2人は20代の女性で、若い感性を積極的に取り入れている

「僕が農家さん回りをしていく中で、自分だけで情報発信していくのは正直なところ結構大変で…。その部分をお手伝いしてもらいながら、一緒に企画を考えたり、戦略を練ったりしてくれています」

店のスタッフだけでは手が回らない部分は潔く外部の力も借りる。地域にある若い力を活かすこともまちづくりの中では強く意識していることだ。

生産者を主役にした展開は、店の商品棚でも表現されている。例えばコメの棚には、「おいしさって、人柄です。」の大きな文字。生産者別の陳列に、ひとつひとつPOPを添える。こうした店づくりのためにも生産者との対話は欠かせない。梁川さんはほぼ毎日、午前中の時間を集荷を兼ねた生産者訪問にあてているという。

コメの商品棚。「おいしさって、人柄です。」の文字が生産者が主役の産直運営をより強調する

「農家さんを訪ねるのは、農家さんができること、できないこと、やりたくてもやれないことは何なのかを会話の中から拾うためでもあります。それをお店の販売や、運用、方針のヒントにしていきたい」と梁川さん。〝主役は生産者〟は、単なる広報上のキャッチフレーズではなく、経営の主軸であることが伝わってきた。

コメ農家自身の言葉が綴られたPOP。どんな人がつくっているコメかが一目瞭然

選ばれる産直に

今でこそ、新規就農者など若手農家の登録も増えてきたが、入社当初は、出荷者は今より100人以上も少なく、6〜7割が60代後半を超え高齢化が顕著だったという。品物の少なさも目立った。そして何より、現場で指揮をとる「店長」がいなかったと明かす。

「生産者さんが出荷する、売り場の人間はただレジを通過させることだけやっていたという感じ。売るための努力をしていなかったんです。『それじゃ売れるわけねーべ』って…」。当時の心境を漏らす。

改革のためにまず取り掛かったのが、客のニーズにあった商品を増やすことだった。同店があるのは、市民センターやこども広場などが入る4階建ての建物の1階。子ども連れや産直目的でない客の利用も多い。そこで梁川さんは、気軽に手に取れるお菓子やジュース類を少量ずつ入荷し、データを検証しながら品揃えを見直していったという。

整理整頓が行き届いた店内

「産直だから特産品やお土産はもちろんですが、お客さんのニーズにあった商品も置く。地元とバッティングする部分も多少あるけど、品揃えは大事にしたい。うちの店もそうですが、産直って冬になると野菜が少なくなるじゃないですか。そうすると、物が無いというイメージがついてお客さんが来なくなってしまう。ファーストインパクトはすごく大事だから、商品は可能な限り切らしちゃいけないと思っています」

出荷者を増やすためには、どのようなアプローチをしたのか尋ねると、「うちと契約してくださいとお願いして回ったことはほとんどない」と意外な答えが返ってきた。

「毎日のように農家さんのところに行っていると、人が人を繋いでくれるんです。農家さんが、また別の農家さんを紹介してくれたり、『〝やなっち〟のところに行けば売り先が1つ増えるよ』って、新規の農家さんが農産物を持ってきてくれるようになったり、発信を続けるうちSNSにメッセージが届くようになったり。うちは、地域の縛りがないから敷居も低いと思います」

#走れ店長
集荷所に近隣の生産者が集まる。こうした場での対話などをFacebook、インスタグラムで、梁川さんの生産者訪問の姿や新鮮館おおまちの旬の情報を積極的に発信中。農家さんの自然な表情を捉えた写真も魅力的だ
自家製肥料でコメを栽培する阿部洋一さん
出荷を待つ一関市の特産「曲がりネギ」
特産のトウモロコシ「菜の花こーん」をどっさり収穫

梁川さん自身が4Hクラブ(農業青年クラブ)事務局長を担っていることも呼び水となった。「農家じゃないのは僕だけ」と笑いながらも、客にも生産者にも〝選ばれる産直〟になるための努力を身体を張って実践していた。

反発から一変、「変わったね」

データ分析も人脈づくりも一朝一夕にできることではない。成果が表れるまでは、元々いた従業員から反発もあったという。

「なんでこんなことやらないといけないのかとか、今までやってきたことって何だったの? とか。この若造が! と思われるようなこともあったと思う。でも、『このままじゃ取り残されるよ、俺ら働く場所なくなるよ。俺らだけじゃなくて、そこに関わる事業者さんも農家さんも収入減るよ』って言い続けました」

地道な努力が数字に表れ、店が忙しくなってくると、従業員にも次第に変化が見られるように。

「今度は忙しい部分をどうすればいいのか、自分たちで考えるようになったんです。ありがたい変化ですよね。だから僕も、方向性の舵取りはしますが、現場で起こる細かいことはスタッフに任せてしまっています」

従業員は皆、自ら考え、行動している。店舗ロゴがはいったグリーンのユニフォームが印象的

従業員との信頼関係が店の雰囲気を明るくしたのだろうか。外部からも「変わったね」と言われることが増えたそうだ。同時に、テレビや新聞に取り上げられるなど露出が増えると、さらに士気が高まるという好循環が生まれている。

二度とあんな思いはしたくない

「自分の会社が発展しないと、従業員の生活がなくなる、農家さんの収入も減ってしまう。常にそういう意識が自分の中にあるんです」

梁川さんの言葉にはいつも危機感が見え隠れする。そう考えるきっかけとなる出来事が、過去の苦い経験の中にあった。

梁川さんは1979年7月、一関市生まれ。商店街とも農家とも縁のない家庭で育った。10歳から始めた野球で、高校は特待生として入学。大学には行かず、働きながら野球を続けたいという理由から土日休みの地元電子機器メーカーに就職した。出向で勤めた神奈川県の外資系企業でヘッドハンティングされ転職。約10年間、製造の現場で生産技術や工程管理など一連の仕事を学んだという。

「僕が今取り組んでいることは、製造業で先輩たちが教えてくれたことを、まちづくりやお店の課題に置き換えて実践しているだけで、特別なことをしているという認識はありません。データ分析も全然苦にならないです」

立派な白菜を求めて生産者の畑を訪ねる(#走れ店長より)

2008年のリーマン・ショックのあおりを受け、梁川さんの職場も約3割がリストラの対象になったという。その人員を決める業務に梁川さんも関わらざるを得なくなってしまった。

「それがすごく嫌で、今でもずっと気にしてる…。今、『何クソ!』って必死になれるのは、もう二度とあんな思いはしたくないという気持ちがあるからです」

しばらくして、梁川さんは仕事を辞め一関に戻ってきた。店長候補として同社に入社してからの活躍は前述の通りである。

将来の選択肢に「産直の店長」

梁川さんに、この業界の後継者不足と世代交代についてどのように考えているか聞いてみた。

「僕が他所の店に何か言える立場ではないですが…」と前置きした上で、「僕が、こうやって好きなことをやらせてもらえているのは、今の会社の役員さんたちが僕に自由を与えてくれているからです。失敗も成功も経験させてもらえる。僕が次にうちのお店を背負ってくれる人に出会った時には、僕もそうすると思う」と話した。

梁川さんたち新世代の人々の力で実現した「一関大町まちなかマルシェ」

今回、新世代リーダーたちに聞くというテーマでお話を伺ったのだが、梁川さんがすでに次の世代の育成を常に意識していることが印象的だった。4Hクラブでは、農業高校や農業大学校の学生と話すキャリア教育の機会もあるそうで、将来、産直の店長をやりたいと就職先の1つとして候補にあがるような活動を進めていきたいと教えてくれた。そして最後に、大好きな野球にからめて、「野球は、小学校の時から『予想を裏切り期待に応える選手になりなさい』と言われてきた。今もその気持ちは持ち続けています」と力強い一言。梁川監督率いるチーム新鮮館おおまちのスタッフはちょうど9人。その健闘に期待したい。

※この記事は「産直コペルvol.52(2022年3月号)」に掲載されたものです。

街なか産直 新鮮館おおまち
岩手県一関市大町4-29 なのはなプラザ1F
TEL:0191-31-2201 
FAX:0191-31-2202
WEBサイト:https://ikiikishinsenkan.ocnk.net/

この記事を書いた人
産直コペル 編集部
この記事は、産直新聞社の企画・編集となります。