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【特集 どうなる!?体験型農業〜アフターコロナの新しい形】いつか宿泊型の、真に継続的な農業体験ができる施設をつくりたい/道の駅やちよ×島田体験農場(千葉県八千代市)

道の駅やちよ 外観

道の駅が体験型農業を募集するケースは少なくないが、その成功例として知られるのが「道の駅やちよ」。都市生活者と農家の交流を目的としたこの道の駅は、直売所も入る「八千代ふるさとステーション」と農業体験や調理実習のための「やちよ農業交流センター」という2施設を持つ〝都心に一番近い体験型道の駅〟だ。ここでの体験は単発的なものだけでなく、何度か来てもらう継続的なものも含む。そうした体験型農業を支える農事組合法人 島田体験農場の代表理事兼組合長 荻原 正さんに話を聞いた。 (文・中村光宏)

安心・安全な田植え体験

老若男女問わず、皆さん泥んこになって田植え体験中。秋には、今度は実りを刈り取る収穫体験が待っている老若男女問わず、皆さん泥んこになって田植え体験中。秋には、今度は実りを刈り取る収穫体験が待っている

「皆さーん、お手元の苗を植え終わったら大声で教えてくださいねー! 苗はいくらでもありますから!」と島田体験農場メンバーの声。直後に「は~い!」と、膝下まで泥に埋まった子供たちの元気いっぱいの返事が響いた。
これは5月3日に開催された「道の駅やちよ」の、田植え体験でのひとコマ。昨年はコロナ禍で中止を余儀なくされた米づくり体験が、今年は万全な新型コロナウイルス感染症対策の元、無事に開催できたのだ。

「例年は体験用に特設した15㌃の田んぼに、70組同時に植えてもらっているんですが、今年は40組に絞りました。さらに午前、午後で20組ずつに分け、スペースを交互に設けることで各組の間隔が最大限になるようにしました」(荻原 正 組合長)

畦から見渡すと、田植えを楽しむ家族連れや夫婦、若いカップルが点在している。三密とは無縁の広大な青空の下、各家族の間は厚生労働省が唱えるソーシャルディスタンス=2mより遙かに離れているのは一目瞭然だ。
参加者も心底楽しめたようだ。「清潔なトイレなどの設備が万全ですし、コロナ対策もしっかりしているので安心して参加できました」(千葉県船橋市の斉藤さん)、「コロナ対策について今日の朝まで心配しながら来ましたが、まったくの杞憂でした」(東京都世田谷区の小川さん)、「遊興施設よりも自然の中の方が絶対に安心。ここは密にならないよう工夫されていますしね」(千葉県船橋市の宇田川さん)と、想像以上に安心・安全な環境で体験できたことに感心しきりだった。

米づくりもそら豆も体験中止に

島田体験農場組合長荻原正さん。島田体験農場組合長荻原正さん。子供に興味を持たせつつ、田植えについてしっかりと説明する様はお見事!

しかし荻原さんは、コロナ禍が日本を覆い尽くした昨年は、今年にこんな活気あふれる体験が復活できるとは思えなかったと振り返る。

「道の駅やちよは、米づくり体験の他にもイチゴやブルーベリー狩り、オーナー制で区画を設定してのそら豆(800区画)、ジャガイモ(300区画)、サツマイモ(200区画)、落花生(190区画)、枝豆・黒大豆(550区画)の収穫体験や20品目に及ぶ野菜づくりを楽しめる体験農園(32区画)など多種多彩な体験ができるんです。でも昨年は散々でした」

都心から約30キロと近く、隣接する農業交流センターに清潔なトイレや洗い場、駐車場などを完備するこの体験農場は大変な人気で、例年、市の広報誌にオーナー募集の日時を掲載するだけでほぼすべての体験メニューが開始後わずか数時間で完売していた。しかし昨年は、米づくりに加えてそら豆の収穫体験も中止、その他の収穫体験も振るわなかった。イチゴ狩りに至っては、コロナが猛威を振るう前の2018年度は8162名だった来場者が、19年度が6642名、20年度は4022名と半数まで落ち込んでいる。

「そら豆の中止決定は募集直前でしたから、実ったそら豆の収穫に追われたのも辛かった。結局、収穫しきれず一部残したまま刈る羽目になりました。イチゴも連日の収穫作業が一大事。幸い道の駅の直売所で全量を販売できましたが、売上げは2割以上減少しました」

もったいないと思ってしまったが、よくよく考えれば島田体験農場のメンバーは、ほぼ全員が自身の田畑を持つ農家。体験農場にかかりっきりになる訳にはいかなかったのだ。

もうすぐ収穫期を迎える農業体験用のそら豆畑。もうすぐ収穫期を迎える農業体験用のそら豆畑。今年の体験分は、予約ですでに完売しているという人気作物だ

アフターコロナの壮大なプラン

1年間、区画借りする体験農園。1年間、区画借りする体験農園。初心者向け16区画、中級者向け16区画の計32区画を用意している

恒例行事だった県外からの保育園や幼稚園、小学校のイモ掘り、田植えや稲刈りがすべて中止になったことも追い打ちを掛けた。そんな危機的とも言える状況下であっても、島田体験農場のメンバーはアフターコロナに向けて話し合いを欠かしていないという。

「まず一人でも多くリピーターになってもらうため、区画の魅力を向上させたいと考えています。例えば現在は空白期間の冬に収穫できるほうれん草や白菜、大根などを作付けし、通年楽しめるようにしたい。八千代の農業や農産物の魅力を、もっと知ってもらいたいんです」
と言った荻原さんは、次の瞬間、茶目っ気たっぷりにとてつもなく壮大なプランを耳打ちしてくれた。

「実はいつか宿泊施設を完備した、色々な農業体験ができる施設を建てたいんです。継続的農業体験といっても、現状は田植えと稲刈り、そして収穫のみ。でも都市生活者の方々は、作物の成長過程やその都度必要になる作業にも興味があるのではないでしょうか。むろん我々だって一貫して知ってもらいたいし、そうなればもっと共感してもらえると思うんです」

島田体験農場のメンバーが考える体験型農業の新しい形―それはおそらく体験型農業の究極形。すぐには無理だろう。でも、そんな真に継続的農業体験ができる施設が都心に近い道の駅にあったら、素敵だと思いませんか?

※この記事は「産直コペルvol.48(2021年7月号)」に掲載されたものです。

道の駅やちよ 外観体験のベースとなる農業交流センター。体験型農業では、キレイなトイレなどの共用設備の充実も重要となる
この記事を書いた人
産直コペル 編集部
この記事は、産直新聞社の企画・編集となります。