直売所

【直売所訪問記】道の駅南アルプスむら長谷 ファーム長谷(長野県)

南アルプスへの玄関口に位置する長野県伊那市長谷地区。人口1800人ほどの集落に「ファームはせ」はある。夏場は登山客やツーリング客でにぎわう同店だが、冬の集客や生産者の高齢化など課題もある。長谷地区の小さな拠点施設として直売所を運営する農業法人ファームはせ(株)代表取締役の羽場政光さんにお話を伺った。(文・羽場友理枝)

中山間地の直売所

平成9年に道の駅登録された南アルプスむら長谷の一角で直売所を運営する、「ファームはせ」は平成18年3月27日から地元産農産物、加工品、土産物を扱っている。この農産物直売コーナーと、別の場所にある加工所「気の里工房」を市の指定管理を受け運営し、2年前から道の駅の近くで食事処すずなも独自で始めた。

この地元農産物直売コーナーでは、農産物部門の売り上げは年間約3000万円ほどだ。生産者は伊那市長谷地区・高遠地区・美篶地区・手良地区など近隣地区から約90名が出荷している。

ゼロ磁場(磁力が打ち消しあいゼロになる場所)の分杭峠がパワースポットとして有名になり、地元では「気の里」として知られるようになった長谷地区では、「気の里」の効果か、長谷の肥沃な土地のおかげか長谷の米は美味しいと評判ですぐに売り切れるという。「粘り気もあって美味しくて人気だよ」と羽場さんも嬉しそうだ。今年は、夏に雨が多かったこともあり、取材で訪ねた秋口には松茸を始め、きのこが豊富に直売所に出ていた。長谷地区は松茸山も多く、特産品の一つになっている。加工所では手づくりアイスクリーム・漬物・味噌などを作り、直売所や近隣のスーパーで販売している。

店内の様子。きのこなど秋を感じさせる品物が並んでいた

小さな拠点づくり

農産物は直売所だけでなく、近隣の高齢者施設への販売を行っている。他にも東京都にあるグループホームに毎週野菜を送り、販売してもらったり、年に一度新宿祭り(東京都)に出店したりと都市農村交流の担い手として地域外への販売も活発に行っている。「いろいろな直売所を視察させてもらったり、ご縁で販売先も広がってきた」。そう話す羽場さん。ご縁から広がった活動の一つが小さな拠点づくりだ。

以前から、法政大学地域研究センターが長谷地区をフィールドとして調査や活動を行っていた。そのご縁から、ファームはせの東京都での農産物販売はすでに10年ほど続いているそうだが、その研究センターから平成26年に生活圏を支える「小さな拠点」づくりの主体としてやってみないかと声をかけられたそうだ。

気の里入野谷米。人気のお米だ。5号のお試しサイズも販売している

長谷地区は旧長谷村時代(平成9年頃)より、高齢化や人口減少にむけ村の中心集落に日常サービス提供機能(診療所、高齢者施設、地域産業振興施設、ガソリンスタンド、農協食材販売店など)を集積させる事業に取り組んでいた。しかし、予測をはるかに超える人口減少などにより閉鎖する施設がでたりと拠点施設としての機能が果たしきれておらず、その集積された拠点内にあったファームはせに声がかかった。

「小さな拠点」づくりに向け、地域住民へのアンケート調査、説明会などを行った。アンケートの結果、旧長谷村内の同年代の人は集落により割合は違えど同じような問題意識を持ち、「高齢化」「鳥獣被害」「人口減少」に困っていることがわかった。また、飲食店が少なく地域住民の寄り合い場が欲しいといった意見もあった。 そこから、ファームはせができることを考え、食事処すずなのオープンと、移住者などを意識した都市農村交流として、東京での農産物販売を強化したそうだ。熱心な取り組みが評価され、長野県代表として国土交通省でも発表の機会を得たという。

顔の見える関係だからこそ

今では、直売所、加工所、飲食店も運営し、小さな拠点として頑張るファームはせは、旧長谷村時代に村役場が長谷の振興を目的とし、地元農産物や土産物を販売できるような場所を道の駅に作ろうと構想したところから始まった。

しかし、なかなか担い手が決まらず、当時JAの役員を務めていた羽場さんに白羽の矢が立ったそうだ。役場職員の熱心な説得に折れ、直売所の運営が始まった。「始まったときは、商品も棚もないし、人もいなくて、いろいろなところから協力してもらったり借りてきて始めた。大変だったよ」と笑う羽場さん。農業委員会などに声をかけて回り、旧長谷村内の生産者40名程で始め、その後90名程まで生産者は増えた。

「中山間地の長谷は、大規模に畑を作っている人が少なかった。伊那市内の平地部にはプロの農家もたくさんいたし、野菜を持ってきてもらうこともできたけど、長谷の小さな農家のやる気を大切にしようと、旧長谷村内にこだわって野菜を集めていた」そう話す羽場さん。できる限り旧長谷村内でと、高齢化の波にも耐えてきたが、それでも5年ほど前からは抗いきれず近隣地区からの出荷もお願いするようになったという。

注文のあった松茸を梱包する羽場さん

今年は豊作な特産品の松茸についても「長谷は松茸山が多いよ。でも、山を歩かないと採れないしね。お年寄りも多いし、直売所だと誰が取ってるとか生産者がわかるから、高価なものだし遠慮して直売所に出されるのは少ない」と羽場さんはいう。松茸は単価も高く、直売所の売り上げとしてはありがたいが、お互いの顔がわかる集落だからこその、運営の難しさもあるようだ。そうした課題とも向き合いつつ、地域住民の人柄も考えながら運営されてきたことが伺える。 

「ありがたいことに、後継者にも恵まれて、もう数年で私は引退すると思う。高齢化とか大変なことも多いけど、小さな拠点としてこれからも地域のためになっていきたいと思う」と羽場さんは力強く話した。

※この記事は「産直コペルvol.32(2018年11月号)」に記載されたものです。

道の駅南アルプスむら長谷

住所:長野県伊那市長谷非持1400番地
TEL:0265-98-2955
営業時間:農産物・特産品販売所
4月~11月 9:00~17:30・12月~3月 9:00~17:00
食事処すずな11:00~14:00
水曜日定休 ※臨時休業日あり