地域づくり

“日本一のりんごの町”が仕掛ける首都圏との縁づくりー長野県飯綱町 有限会社 飯綱町ふるさと振興公社 廣田裕二さん

2022年12月13日、東信州次世代産業振興協議会(長野県上田市)が主催し、産直新聞社が事務局を務める「東信州次世代農商工連携セミナー」の第5回が、「農業と観光の融合―新しい体験型農業の道を探る~」をテーマに開催されました。同セミナーでは、農と食に関連の体験事業を通じて地域振興を目指す2つの先進事例を紹介。このうちのひとつである長野県飯綱町 有限会社 飯綱町ふるさと振興公社 廣田裕二さんの講演要旨を掲載します。(まとめ・佐々木政史)

りんごで関係人口を創出

今日は長野県飯綱町で、私たち有限会社 飯綱町ふるさと振興公社が取り組んでいる、りんごを通じた関係人口創出のお話しをしたいと思います。

まずは飯綱町の紹介から。人口約1万1000人、面積は約75平方キロメートル。気候は寒暖差が激しく、冬は北信ですので雪が積もります。緩やかな丘陵地帯で、信濃川水系の鳥居川が流れ、それを用水とした農業地帯が広がっています。りんご、米、桃やさくらんぼ、ブドウなどの果樹の他、蕎麦も栽培されています。中でも、りんごが有名で、313ヘクタールの栽培面積で8100トンが生産されており、日本トップレベルの生産量を誇ります。飯綱町の最大の魅力は、まさに“りんご”であると言えるでしょう。そのため、町は総合戦略として、りんごを訴求力として首都圏の関係人口を増やし、それにより地域振興を図る方針を掲げています。

長野県飯綱町の風景(廣田さん資料より)

りんご農業塾を通じ、首都圏400人が町と関わり

具体的な施策のひとつが、「りんご学校」です。これは首都圏の方を対象に、りんごづくりの奥深さや魅力、おもしろさを知ってもらう学校で、2017年から取り組んでいます。これまでに延べ約400組近くの方に参加いただいます。ちなみに、“組”としたのは、家族単位の参加者がいるためで、特に夫婦での参加が非常に多くなっています。

実際に飯綱町に来ていただいて地元農家指導のもとで摘果、仕上摘果、葉摘玉回、収穫、剪定作業を1泊2日で行う農作業体験、生産者のこだわりや暮らしを学ぶオンラインセミナー、飯綱町産りんご・そばなどの地元特産品の提供、首都圏での出張販売、「りんご学校通信」などの情報提供を行っています。入門編、中級編、上級編、OB編と、継続年数に応じたプログラムを用意しており、上級編以上は一人でりんごの樹一本を栽培していただきます。

りんご学校の様子(廣田さん資料より)

りんご学校は、様々な面から地域振興に良い影響をもたらしています。その一つが販路の拡大です。農業は農作物をつくることだけでなく、その出口となる販売先を確保することが重要です。ただ、生産者のなかにはこれが苦手な人も多いのですが、りんご学校での農作業体験などを通じて消費者でもある受講生と直接接点を持つことで、新たな販路拡大につながるケースも出てきています。受講者は農業体験などを通じて生産者のこだわりや想いを知ることでファンになり、その生産者から直接購入するようになるというわけです。

生産者と消費者の直接的なつながりは他にも良い効果をもたらしています。多くの生産者は収穫したりんごをJAなどに出荷するため、消費者の生の声を聞く機会が実はあまりないのですが、りんご学校を通じてその機会を得ることができ、モチベーションアップや商品の改良などに活かされているようです。

オンラインでの動画配信も(廣田さん資料より)

りんご学校は、不足する農作業の人手の確保にもつながっています。例えば、東京から参加されているある方は、定年退職し時間に比較的余裕があるため、ペンションに長期滞在してりんご農家の手伝いをしています。農家からは「人手不足のなかで本当にありがたい」という声をいただいています。

この他にも、受講者が町内のイベントを手伝うなど、りんご学校を通じた関係人口の創出で、実に様々な良い影響をりんご生産者や地域にもたらしており、今後もさらにその傾向は広がっていくことが期待できそうです。

農泊でも外から人を呼び込む、直売所の販促アイデアも

飯綱町の関係人口を増やすための施策のひとつとして、農村民泊にも取り組んでいます。

もともとはお隣の長野市が積極的に行っていましたが、ニーズに対して受け入れ農家が足りないので飯綱町でも取り組んでほしいとの要請を受け2014年にスタートしました。首都圏を中心に学校単位でこれまでに多くの中高生を受け入れています。農家に簡易宿所の許可を取ってもらい、農家住宅に宿泊できるようにしています。食事は食品衛生法の関係で提供できないのですが、宿泊だけでなく農作業体験を提供するようにしており、農家や田舎の暮らしを感じてもらう機会となっているのではないかと思います。訪れてくれた子どもたちが飯綱町を気に入り再び訪れてくれることで、関係人口を増やすことにつながればと期待しています。

農村民泊で訪れた中高生(廣田さん資料より)

農村民泊は受け入れ農家にも良い効果をもたらしています。お年寄りなどの活躍の場づくりにもなりますし、副収入を得られる点でも地域の農家にメリットがあります。また、生まれた時から住んでいると意外と地元の良いところに気付かないものですが、農泊をきっかけに地域の良さを再発見する機会になります。

農村民泊は直売所の販促にも活かされています。例えば、農家民泊で来てくれた生徒の「直売所併設カフェでのリンゴジュースの飲み比べ」というアイデアが実現しています。飯綱町ではりんごの加工品としてリンゴジュースが人気で、様々な種類があり、それぞれに特徴があります。そのため、「飲み比べたい!」といったニーズもありますが、大びん単位での販売ですので複数買って飲み比べることは難しいのが実情です。そのような事実を知った農家民泊に来ていた生徒が、それなら直売所のカフェで飲み比べメニューを出してみたらどうかと提案しました。カフェでそのメニューを提供したところ、非常に好評で名物になりました。

飯綱町では、りんご学校、農村民泊を通じて関係人口の増加に力を入れてきましたが、実績も溜まってきて、様々な面から町に良い影響をもたらしてきていると実感しています。そして、これからも関係人口という、地域外からの新たな風を取り入れることで、農業や直売所、地域振興にどのような効果がもたらされるのかーー。私自身とても楽しみにしています。

直売所併設カフェでのりんごジュース飲み比べ(廣田さん資料より)

記者の目ー移住ではなく関係人口を主眼にした地域振興の可能性

今回の講師である飯綱町ふるさと振興公社の廣田さんに「関係人口から移住に繋がっているのか」と質問した。町としてはできればそうしたいと考えているが、実際にはなかなか難しいのが現状という。

ただ、だからといって取り組みが上手くいっていないかというと、そんなことはない。関係人口増加の結果、地域の農家や直売所などへ様々な良い効果が出てきていて、それが地域振興につながっていることは事実だ。

地域振興というと、「移住者の増加」を目的にしがちだが、実際には仕事や住まいなどで高いハードルがあり、簡単でないことも事実。実際に飯綱町は大きな実績を上げているだけに、地域振興の目標を移住ではなく敢えて関係人口に絞り、“結果的に移住に繋がれば”くらいのスタンスが良さそうだ。

そのような考えに立ったうえで。関係人口を増やすためには、“その地域に関わりたい”と思わせる何らかの魅力が必要だ。飯綱町が全国トップレベルのりんごの産地という魅力で首都圏の人を惹きつけたように、まずは自分の住むまちの最大の魅力は何かを改めて真剣に考える必要があるだろう。廣田さんが話すように地元の人は灯台下暗しで見えづらいので、視察ツアーを組むなどし、まずは地域外の人の意見を聞く機会を設ける必要がありそうだ。

この記事を書いた人
産直コペル 編集部
この記事は、産直新聞社の企画・編集となります。