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【特集 新世代農家たち】農家が支える一関のまちづくり(vol.55より)

岩手県一関市の産地直売所「街なか産直 新鮮館おおまち」の生産者、菅原清さんに話を聞いた。出荷時に大切にしていることは? 地域で農業を続けるために実践していることは? さまざまな角度から話を聞くと、まちづくりをひたむきに支える農家の姿が見えてきた。(文・上島枝三子)

岩手県一関市の産地直売所「街なか産直 新鮮館おおまち」に出荷する菅原清さん(44歳)
栽培面積 : 2・2ヘクタール
栽培品目 :トマト、リンゴ、ナシ、水稲、西洋野菜など

産直は多様性

「街なか産直 新鮮館おおまち」の生産者、菅原清さん(44歳)。一関市大東町、標高300メートルの山あいの集落で代々この地を守ってきた農家の後継者だ。菅原さんは農業大学校で2年間野菜を専攻した後、20歳で就農。農家経営歴は既に24余年を数え、若手の中でも中核を担う存在だ。現在は、両親と妻の香織さんと共に約2・2ヘクタールの農園を管理。トマト20アール(ハウス12棟)、リンゴとナシ50アール、水稲1・5ヘクタール、西洋野菜2アールなどを栽培している。

2022年7月にJR大宮駅で催した「いわて産直市」にも出品された菅原さんのトマト。
カラフルで人の目を惹きつける

菅原さんの主要な売り上げを誇るのがトマト。甘味がのりやすく日持ちの良い品種「りんか409」はお客さんからも好評だ。産直の売り場には、収穫後も日を追って赤くなるトマトの特性を生かし、あえてさまざまな色合いのトマトを並べるようにしているそうだ。

「同じトマトでも、お客さんは選びたいと思うんです。だから、完熟だけじゃなく、薄づきのもの、ピクルスにするような青いものまで出荷しています。多様性が求められる産直では、あえて規格に縛られない商品がいっぱいあっていいと思うんですよね」

出荷する時には、どうしたらこの店が売れるお店になるか、環境が良くなるかを常に意識しているという。多様性を求めて産直に来るお客さんの選択肢を増やし、いかに喜んでもらうか―それが売り場づくりで大切にしていることだ。

きっかけは梁川さん

左から菅原清さん、新鮮館おおまちの店長 梁川真一さん、一関市特産「菜の花こーん」を栽培する芦農園の芦謙二さん

「『農家だから出荷したら終わり』ではなく、やなさんと同じ立場で物事を考えるようにしていますよ」と菅原さん。「やなさん」とは、同店の店長、梁川真一さんのことだ(本誌52号でご紹介)。菅原さんの自宅から店舗までは車で40分ほどかかる。決して近くはない店舗にわざわざ出荷することに決めたのは、梁川さんとの出会いがきっかけだったそうだ。

「知人の農家さんの紹介でちょっと挨拶に行くだけのつもりだったのに、店先で1時間も話し込んじゃって(笑)。こんな面白い人が売ってくれるなら出荷しようかなって」。梁川さんの人柄とまちづくりへの熱意に惹かれた菅原さんは、以来、一緒に働く仲間として店を盛り上げている。集荷のお願いや相談事など密に連絡を取り合える関係性も出荷を続けられる理由だ。「やなさんに会っていなかったら出荷していない」。そんな菅原さんの言葉は、お互いの信頼関係こそが活気ある店づくりに寄与しているんだという強い自負を感じさせた。

アグリワークス一関

「農家はよく働いて、呑みに行って食べに行って、機械も買って、地域に貢献しないと」。そう屈託のない表情で話す菅原さんの地域農業への思いは深い。6年ほど前には、菅原さんらトマト農家が結束し「園芸ハウス建設組合」を設立した。高齢化が進むこの地域では、新規就農を希望する人がいても、肝心のハウスを建てられる業者がいなくなってしまったからだ。現在は「アグリワークス一関」を再結成し、「新規就農者の要望には必ず応えられるように」と、主に農閑期の冬に5〜6人の農家が集まって活動を続けている。建設の際には必ず施主にも作業に加わってもらい、ハウスの構造や使い方を伝えているという。その時間は、同時に農家同士の交流を深める場、栽培についての情報交換の場にもなっているそうだ。

「同じトマト農家として、できることなら一年目からしっかり採れてほしいし、失敗して欲しくない。わからないことがあったら、誰でも話しやすい人にちゃんと聞くんだよって話しています」と菅原さん。基盤の無い土地で新しく農業を始めようとする人にとって、同じ地域で同じ作物を作る先輩の存在は、どれほど大きく心強いことだろう。かつて親から子へと受け継がれてきた農業の技術や慣習は、地域コミュニティーの中で着実に伝えられていた。

こだわらないのがこだわり

そんな菅原さんに、自身の農業へのこだわりについて尋ねると、「こだわらないのがこだわり」と思いがけない言葉が返ってきた。「自分のやり方が一番いいのか? いや、もしかしたら違う方がいいんじゃないか? と常に自分を疑って、固定概念を持たないようにしています。新規就農者でも、うまくいっている人には平気でアドバイスを求めますよ(笑)」と、菅原さんは戯けて見せた。実際に、新規就農者から教わって10年来続けてきたやり方を見直したり、新しい機材を導入したりもしたそうだ。その甲斐もあって、収量が増えたり、機械化で空いた時間を別の作業に回せたりと生産性も向上している。

固定概念にとらわれず、良い方法はどんどん真似る。謙虚な姿勢で人にも農業に向き合う菅原さんの人柄が、作物のおいしさにも現れていることは間違いない。

魅力ある農家の姿を子どもたちに

プライベートでは3人のお子さんを育てる菅原さん。自然と、将来のことを考える機会は多い。地域の子どもたちに農業の魅力を知ってもらおうと、小・中学校の農業体験や職場体験を積極的に受け入れている。

「子どもたちには、一企業を選択して就職するのと同じように〝農家〟を選択してほしいと思っています。普段、自分の子に家の仕事を手伝ってと言うことはありませんが、自分からやりたいと思ってもらえるような魅力ある職業に、親がしていかないといけませんね」 農業者の立場で産直運営を支え、身体を張ってひたむきに地域を守る菅原さんは既に、魅力ある農家だと思った。

菅原さんが栽培する西洋野菜の一部。市や4Hクラブなど若手農家が連携し「一関を西洋野菜の産地にしよう!」と取り組んでいる

「街なか産直 新鮮館おおまち」とはこんな直売所

店長 梁川真一さん

「街なか産直 新鮮館おおまち」は、東北新幹線・東北本線の駅から歩いて5分の商店街の一角にある産地直売所です。運営するのは、一関まちづくり株式会社で、その名の通り「まちづくり」を基本理念に掲げています。

今回の取材で、菅原さんを推薦したのは、そんな僕たちの思いを一緒に実現してくれる若手農家としてコペルにぴったりだと思ったからです。まじめで、でも遊び心があって、「自分より他人」という温かな人柄が僕は大好き。目先のことだけじゃなく次の世代、地域の農業のこの先のことも大切に思っている菅原さんにいつも刺激をもらっています。菅原さんは、今、〝一関を西洋野菜の産地にしよう!〟という市のプロジェクトにも参加して、シャロットやリーキなど多種多様な野菜の栽培にも挑戦しています。そんな農家さんを応援し、全国に農産物を届けるハブとして僕たちも一緒に頑張っていきます!(店長 梁川真一さん)

街なか産直 新鮮館おおまち
岩手県一関市大町4-29 なのはなプラザ1F
TEL:0191-31-2201
営業時間:8:30〜18:00
1月1日のみ休み

※この記事は「産直コペルvol.55(2022年9月号)」に記載されたものです。