農と食

【農の点景】一皿の料理

農の点景 ひとつながりの命 ー草間舎の田畑から⑰ー

長野県伊那市で有機農業を営む瀧沢郁雄さん。
巡る季節に合わせ田畑の様子をお伝えします。

温暖化による異常気象の影響で、今年はモンシロチョウが少ない。
おかげでキャベツもブロッコリーもカリフラワーも食害なくピカピカですが、
精緻な自然のメカニズムが壊れていくのを目の当たりにしているようで不安です(写真は2009年11月のもの)

一皿の料理

最寄りの駅は巣鴨だった。グルメが集う華やいだ街のイメージとはほど遠い、白山通りから小さな路地に入るとビル風に堂々とはためくフランス国旗が目に入る。他に店らしい店もない道を、それを目印に真っ直ぐ向かう。入口の横には真鴨が2羽と雉が1羽吊り下げられていた(熟成中とのこと)。店の名前は「Restaurant La Goulue」、店内に飾られたロートレックの絵のタイトルでもある「食いしん坊」である。

わたしは就農5年目でやっと自分らしい野菜が採れだしてきたそんな頃、伊那のフランス料理店で修業していたWさんが東京の店のシェフに抜擢され、築地の仕入れ時に友達になったというラ・グーリュのオーナーシェフであるFさんを紹介してくれた。「自信のある野菜、とりあえず送って!」と素っ気無い電話があり、やり取りがはじまった。

その時々に畑にある野菜のリストを毎週FAXし、返信された注文に従って収穫し発送する。驚いたことはリストに載った野菜は毎回ほぼ全種類の注文があったこと。フレンチなのに小松菜?大根?白菜?里芋?長葱?

初めて店を訪れたのは野菜のやり取り開始から1年ほど経過した、畑仕事が落ち着いた晩秋の頃。電話では毎週こちらの畑の様子やあちらに届いた野菜の感想など話してきたが、初対面でお互い緊張していた。程なくわたしの前に運ばれてきたグラスシャンパンと前菜の一皿。その皿の端にちょこんと盛られた緑のものを口に入れる。

オイルを纏い輝く美しい緑、ペーストに近いが歯ごたえが少しある絶妙な茹で加減と切り方、鮮烈な香りと最後に口中に残るやさしい甘味。これが何の葉っぱなのか美味しすぎてわからない。前回送った野菜を頭の中に羅列し、消去法で考えて「春菊?!」嬉しそうにこちらを見るシェフ。驚嘆して調理法を聞けば、茹で、切り、胡桃のオイルとゲラントの塩で和えただけというシンプルなもの。素材の持つ個性をさらに増幅させる見事な料理。「スゴいです!」というわたしにシェフがくれた一言。「キミの野菜じゃないと、この味にならない」。いただきました、★3つ!

一面に広がるキャベツ畑10月以降台風は訪れず、豪雨もなく、害虫の発生も極めて少なく、晴れの日が多く、適度に気温も下がり、穏やかな秋らしい秋になりました。結果、数年ぶりに秋作は豊作です。
11月下旬の野菜セット。
豊作なので、いつもより種類多めの野菜セットになっています。
最高気温が連日10℃以下になる頃に、ニンジンを土中に貯蔵します。
以前は11月下旬から12月上旬にこの作業を行っていましたが、昨年は12月中下旬。地温が下がることが貯蔵の要なので、季節の移ろいに従うしかありません。
貯蔵したニンジンは2月末まで出荷します。
この記事を書いた人
瀧沢 郁雄
瀧沢郁雄(たきざわ・いくお)専業農家。1971年生まれ。茨城県出身。96年、長野県伊那市に新規就農し、有機農業を営む。農場名は「草間舎(くさましゃ)」。水稲と小麦、大豆、露地野菜(小量多品目)、50羽の鶏を育て、生産物を個人消費者に直接販売している。