南国・宮崎県の最南端に位置する串間市。市役所に商工会議所、郵便局、駅が集まる中心部に、「道の駅くしま」は2021年4月にオープンした。コロナの渦中というタイミングで、厳しい出足となることが予想されたが、翌年1月17日に初年度の目標来場者数(30万6千人)を3カ月前倒しで達成した。指定管理の責任者として経営の先頭に立つのが、堀口一樹さん(41)だ。青年会議所メンバーとして地域おこしに携わってきた仲間と新しい会社をつくり、自らが社長を務めている。〝地域を潤すオアシス〟にしたい—とする堀口さんの経営に懸ける思いを聞いた。(文・熊谷拓也)
海と山の幸が集まる、まちなかの道の駅
夢は、南の果てにある。太陽と海と野生動物。天然づくし—。串間市の食や農、特産品を紹介する市のポータルサイトの冒頭には、こんな魅力的なキャッチフレーズが添えられている。串間市へは宮崎市街地から車で約2時間、太平洋に面した海岸沿いの道を行くとたどり着く。温暖な気候で、働きながらマリンスポーツを楽しめるワーケーションにも適したエリアだ。
秘境感漂う「都井岬」には、300年もの間、野生のまま生きる馬がいて、静けさに包まれたありのままの自然に浸ろうと、観光客が訪ねてくる。幸せの島と書く無人島の「幸島」は、芋を洗うことで世界的に有名になった猿が気ままな暮らしを送っている。
恵まれた自然環境が育む食の豊かさは、串間市の何よりのアピールポイントだ。「やまだいかんしょ」は串間自慢のサツマイモで、つや感のある特徴的な赤い見た目から「赤いダイヤ」とも呼ばれている。大きくて甘い完熟の金柑「たまたま」は皮ごとそのまま食べられ、いわば〝金柑の王様〟だ。養殖も盛んで、ブリやカンパチ、岩ガキは年中楽しめる。
そんな旬の野菜や果実、海産物が売り場いっぱいに並ぶのが、市のど真ん中にある「道の駅くしま」だ。コロナの第4波への警戒感が高まっていた昨年4月、逆境からのスタートだった。「正直に言うと、もう1年準備期間が欲しかったのですが、そういうわけにもいかず…」と、堀口さんは当時を振り返る。
万全の感染対策を施した上でのオープン。すると、想像を良い方向に裏切って、ゴールデンウイークまで1日5000人という客足が続いた。スタッフも手厚い体制で臨み、入口の自動ドアのスイッチを切って人数制限をかけながら対応。「神経がすり減るような忙しさだった」と言うが、そこには目指していた道の駅の姿があり、「オープンの日を迎えられて良かった」と心から安堵したという。
にぎわう「マルシェ」と「ショクドウ」
それだけ多くの人を惹きつける道の駅とは、一体どのような施設なのか。
メインの「飲食物産館」には地元産物の直売コーナー「ウミヤママルシェ」と、新鮮なブリが主役のご当地グルメ「ぶりプリ丼」などを提供する飲食コーナー「ウミヤマショクドウ」が入る。
ぶりプリ丼は、宮崎県民の「オススメめし」を選ぶための「県民総選挙」で見事ナンバーワンに選ばれた大人気メニューだ。串間で水揚げされた活け締めのブリを使う、丼の中は上からブリ、サラダ、ごはん、火をいれたブリとする、串間の食材や旬にこだわった素材を使用する、といった12カ条の定義があり、各店がそのルールに沿っている。
ウミヤマショクドウは、日本を代表する老舗料亭「なだ万」で修行し、独立したシェフの吉岡良祐氏が監修。ぶりプリ丼から着想を得た「ぶりプリ海鮮ちゃんぽん」、「ぶりプリカツカレー」などのオリジナルメニューも提供。このほか、揚げたての「やまだいかんしょ」を熱々で販売する「ポテトスタンド」や、宮崎県を中心にチェーン展開する「寿司虎」の本店が道の駅の敷地内にある。
続いて、「情報館」。道の駅の基本的な機能として道路情報を大型モニターで提供しているが、串間の観光スポットの旬な情報も意識的に発信している。「ここに来たら串間の情報がすべて手に入る」という施設を目指し、機能は順次拡充していく予定だ。
そして、現在建設中の「市民交流施設」と「イベント広場」は、共に今春オープンする見通し。完成すれば、子どもが勉強したり大人が集会を開いたりできるフリースペースが備わり、屋根付きのイベント広場では、地場産品が集まる朝市「よかむん市」をはじめ、さまざまな催しが開催されるようになる。
堀口さんはコンセプトとして「まちなかのオアシス」を掲げている。人口1万7000人の串間市だが、人口減少と産業衰退はご多分にもれず著しい。それを「枯渇する砂漠」になぞらえて、道の駅を「みんなが向かってくる目的地」=「オアシス」にしたいと考えている。
この発想は道の駅の指定管理者に決まった4年前から変わらない。「人がつどいにぎわって、新たな人脈やアイデアが生まれる」。道の駅が地域活性化の源泉となり、新たな流れを生み出していく、そんな将来の姿を描いている。
若い仲間と地域の未来を担う
堀口さんが若くして道の駅の管理責任者となったのにはいきさつがあった。
生まれも育ちも串間市。一度は地元を離れて福岡のデザイン専門学校へと進み、カナダで1年間バックパッカーをしていた。その後、故郷に戻ってからは、地元でスーパーを営む父の会社に就職。「四季彩館ほりぐち」は、串間産「黒瀬ぶり」をはじめ地元の新鮮食材を取りそろえていて、串間市民に広く愛される存在だ。
「地域をより良くしたい」との思いを持って、青年会議所に入会。市中心部に道の駅をつくる計画があると聞いたのは、今から10年ほど前のこと。ちょうど理事長を務めている頃だった。
「またどうして、そんなことやるのか…」。最初に知った時に抱いた感想は必ずしもポジティブなものではなかった。というのも、既に人口減少局面に転じていた当時、新たに箱物をつくることに対して直感的に抵抗があったからだ。
堀口さんは青年会議所の幹部たちと共に積極的に道の駅づくりの議論に参加した。そこで率直に感じたことは、「この道の駅計画は、串間市の未来を左右するビッグプロジェクトになる。誰かが覚悟を決めて真剣に取り組まないと大変なことになる」だった。最終的に「自分たちのまちは自分たちでつくるんだ」という決心に至り、青年会議所時代の先輩である立本さん(現、海山社中副社長)と共に発起人となり新会社を設立、道の駅の指定管理者に名乗りを上げることにした。
手数料率25%という“チャレンジ”
若い彼らが経営を担うことで、道の駅くしまは、大胆かつ斬新なチャレンジをしている。それが本誌編集長の毛賀澤も今後の行く末に注目している、手数料率を25%に設定したことだ。
他の直売所を見ると、15~20%の手数料率が一般的な水準だ。これだけ聞くと、「相場とかけ離れた高い手数料を取っているとはけしからん」と言われてしまいそうだが、事実はそうではない。
「市の施設とはいえ、私たちは収益の中で運営しなければなりません。開業前の2~3年に県内外の道の駅をいくつも回り、どのくらい売上を上げていて、どのくらい集客できているのか、ヒアリングを重ねました。道の駅の売上は品物が充実している時期とそうでない時期とで差があります。自分たちの施設のポテンシャルはどれほどのものか、売り上げのシミュレーションを100回以上繰り返しました」
堀口さんも直売所の手数料の相場感は認識していたが、「何度計算してみても25%がギリギリのラインだった」という。道の駅の出荷者協議会にその事実をありのまま伝え、運営側と出荷者側の双方が納得できるよう、手数料率をいくつにするべきか両者で話し合った。最終的に「25%にしよう」と持ち出したのは、出荷者協議会の会長の側だった。
オープン後、品物の集まり具合は順調だ。それどころか、「道の駅に出す品物は、手数料分を乗せた価格に見合うだけの良い物でなければならない」という前向きな機運が広がっているという。近年、インターネットの直販サービスが普及し、若くて意欲的な農家の直売所離れも起きつつあるが、串間の取り組みは解決のための第一歩になるかもしれない。
そのことを感じさせるエピソードがある。これは高齢農家の話だが、すごくおいしいトマトを出荷している農家に、「黄色や緑のトマトもあると色合いがきれいで面白い」と堀口さんが伝えた。すると、その農家はすぐに苗を取り寄せて約1ヵ月後にカラフルなトマトが売り場に並ぶようになった。すると、そのトマトはたちまち人気商品に。今度は農家の方から「次は何をすればいい?」とアドバイスを求められたという。
「運営者は預かって管理するだけではなく、出荷者と一緒にやるんだという気持ちが大事だと思っています」
この堀口さんの言葉から分かるように、実際には「若いから新しいことにチャレンジしている」という感覚はないそうだ。むしろ、「基本に忠実にやる中で、新しいことを継ぎ足していく」という考え方だという。
道の駅の管理を任されることが決まってから、プライベートの時間はほとんどない日々が続いている。その先に描く未来は、地域に暮らすすべての人が夢を見れるオアシスに道の駅がなることだ。「道の駅を盛り上げていくことで、地域の皆さんのマインドチェンジをする。未来をつくるのは、今いる僕らの行動です」
※この記事は「産直コペルvol.52(2022年3月号)」に掲載されたものです。
道の駅くしま
宮崎県串間市大字西方5503-1
TEL:0987-72-0800
WEBサイト:https://michinoeki-kushima.com/