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【特集 集落を守る直売所】「あさつゆ」があることで守られた農地がある(長野県上田市)

『産直コペル』vol.32特集「集落を守る直売所」。次に紹介するのは、長野県上田市丸子地区にある直売所、上田市丸子農産物直売加工センター「あさつゆ」だ。生産者で作る任意団体が運営主体で、現在の売上規模は約3億円。平成16年に現在の店舗が完成し、開業から14年目を迎える。

その歴史は昭和60年代にまで遡る。活動の始まりに「集落を守る」「地域農業を守る」といった大義名分があった訳ではないそうだ。しかし、結果として、地域の農地が守られてきた側面があるという。直売所があることで、維持されてきた集落の農業。あさつゆの歴史を紐解きながら、古くからある直売所が担う「集落を守る」機能について、考えてみたい。 (文・編集部)

大義名分から始まった訳ではなかった

昭和60年、農家数人で作った小さなキュウリの無人直売所が、あさつゆの原点だ。

「もともと、地域を守ろうとか、そういった理念があった訳じゃなかったよ」と、当時を知るあさつゆ組合長の伊藤良夫さんは笑いながら教えてくれた。もともと旧丸子町は、キュウリや米、リンドウなど、単一の作物を作る農家が多い地域だった。特に栽培が盛んだったキュウリは、規格が厳しく、少しでも曲がっていたり、太すぎたりすれば、規格外品もしくは加工用となってしまい、大きく値が落ちてしまう。味は変わらなくても捨てざるを得ないものが多く出た。それにも関わらず、系統出荷の場合、生産者の手元に残るお金はわずかだ。「規格外の農産物でもきちんと売って、手取りを増やしていきたい」という農家の思いや危機感が、直売所開設へとつながった。

丸子地域の直売事業のはじまりとなったキュウリの無人直売所

「無人直売所を始めてから、直売に農家が少しずつ面白さやメリットを見付けたんだよ。作ったものがほとんどお金になる。系統出荷ではあり得ないことだったからね。その無人直売所を作った農家が、あさつゆ開設に向け先陣を切って活動してくれたんです」(伊藤さん) 昭和60年頃から始まった丸子地域の直売事業は徐々に広がりを見せ、各集落で無人・有人の直売所が生まれていった。新鮮でかつ安い農産物が手に入るとあって、消費者には非常に喜ばれ、よく売れたという。各地で直売事業が盛んになってくると、行政からの協力も得られるようになった。そして平成16年、現在の施設を当時の丸子町(現上田市)が建設、今の「あさつゆ」が誕生した。

直売所向けの作物はその土地の風土に合わせて作る

あさつゆの店内

直売所では、規格にとらわれず、さまざまなものが商品になった。

「JAへの出荷は、ほとんどの場合、まず栽培が推奨されている『作物』が先にある。その作物に合う土地にしか栽培できないから、農地は限られてくるでしょ。でも直売所なら、『その土地に合ったもの』を作れる。例えば、日当たり、水はけなどによって作る作物を変えられる。獣が出る所には、ネギやエゴマを育てればいい。直売所であれば条件の悪い土地で少量作ってもお金になる。この地域で作られる作物の幅は大分広がったと思う」(伊藤さん)

実は、昭和50年頃をピークに、20億円ほどあった旧丸子町の農業産出額は、年々1億円単位で減少を続けていた(生産農業所得統計 長期累年 市町村別累年統計/農林水産省より)。そうした状況の中、地域に直売事業が発達したことで、単一作物栽培から多品目栽培へ切り替える農家も増え、多少条件の悪い農地でも栽培を続けることができるようになったという。耕作放棄地の拡大を食い止めるのに、直売所は大きな役割を果たしたのではないかと、伊藤さんは考えている。 

「この地域の農家は今でも減り続けています。耕作放棄地も増えている。でも直売所が無ければ、もっと惨憺(さんたん)たる状態だったんじゃないかな」(伊藤さん)

高齢農家の活躍が、直売所を支えた

あさつゆに出荷するトマト農家

「技術が無くてもある程度収入になることは、直売所のいい所だと思う。最近は定年になってから実家の農地を継いで就農する人も増えてきました。サラリーマンやりながら出荷してくれる人も少なくない。60歳から20年積み上げていくことができれば、ベテランになれるからね」と話す伊藤さん。

「もともと『後継者がいない』という農家がほとんどでした。もしその人が倒れたら、そこでその家の農業は途絶えてしまう。それが、直売所ができたことで、その家の若い人も、地域の農業に夢を持てるようになったんじゃないかと思う。わずかな量でも出荷できるし、『じいちゃんが出荷しているし基盤もあるから、定年してからは直売所に出荷してみよう』って思ってくれた人は少なくないと思います」。そう話すのは、あさつゆに併設された加工所「えだまめの会」代表の藤森たか江さん。あさつゆに出荷される作物を活用し、お菓子、お惣菜などを作り、販売している。開設時から、あさつゆの運営に関わってきた。 

あさつゆは、高齢の生産者の活躍の場にもなってきた。毎日出荷することを目標にしていた高齢の生産者もいたそうだ。現在、最高齢は90歳。「やっぱり昔からの技術があるから、若い人も適わないよ」と伊藤さんは尊敬の念を込めながら、教えてくれた。

 地域の農業を守るには、「売る」こと

「『おいしいものを作って、売る』というのが直売所の本質。最初から『地域を守る』といったコンセプトや理念を掲げていたら、うまくいかなかったのではと思っています。高齢の生産者でも毎日のように持ってきてくれているのは、何より『売れるから』だと思う。やりがいだったり、手取りを増やすことだったり、直売所に何を求めるかは、農家ごと違う。それぞれの農家がそれぞれの価値観で直売所にメリットを見出せれば、楽しさが生まれてくるし、農業を続けようと思うようになると思う」と伊藤さん。それが結果的に、地域農業や集落を守ることにもつながってきた。「集落を守る」という機能は、本来直売所という形態の中に内包されているものなのだろう。

朝の出荷風景

「あさつゆの店頭には、直売所運営の上で大切にしている項目を書き出した『安全・新鮮宣言』を掲げてます。理念のようだけど、実は全てこれまでの失敗の裏返しなんです(笑)」 そう伊藤さんは謙虚に笑うが、開店時には行列ができ、我先にと農産物を買い求める客の姿を見ると、あさつゆがいかに、地域で愛されているのかが伝わってくる。理念やコンセプト以前に、生産者が「売りたい」と思える直売所にすることが、「集落を守る直売所」の、第一の条件なのかもしれない。

※この記事は「産直コペルvol.32(2018年11月号)」に記載されたものです。

上田市丸子農産物直売加工センター「あさつゆ」


長野県上田市御岳堂54-1番地
0268-41-1062
午前9時30~午後6時
年中無休〔1/1~1/4を除く〕