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【特集 LFPは何を生み出したのか?】オールながのプラットフォーム 構築こそ核心

令和3年度は全国で21の道府県が地域食農連携プロジェクト(令和4年度から「地域食品産業連携プロジェクト」に改称)に取り組んだ。その取り組み状況と特徴を各地の当事者から聞いた。

長野県のエノキタケ生産量は日本一。「アスキノ・プロジェクト」の主役だ

オールながのプラットフォーム 構築こそ核心

長野県では、本誌『産直コペル』の発行元である株式会社産直新聞社が長野県から事務局業務の委託を受け、長野県農政部農産物マーケティング室と共にLFPながの事務局を形成した。
そのもとで進めてきた取り組みの特徴は、第一に、農や食品関連産業にとどまらない多種多様な領域からのLFPパートナーの参集とその主体的参加による公開の情報・意見交換会(LFPながの定例会)の開催。第二に、そこから生まれた食農連携プロジェクト=「明日はきのこを食べようプロジェクト」(以下「アスキノ・プロジェクト」)のユニークさを上げることができる。本項では、前者=プラットフォーム構築の取り組み経過と意義をまとめ、次項で、後者=地域食農連携プロジェクトに焦点を当てて紹介する。(文・毛賀澤明宏)

手探りでたどり着いた「LFPながの定例会」の定期開催

長野県では、農水省の実施要綱等に示された「食農連携のプラットフォーム形成」を具現化する〝しくみ〟として、やはり要綱などに例示されていた「3回の研修会の開催」「3回の戦略会議の開催」にとどまることなく、LFPパートナーが自由に参加できるオープンイノベーションの場=「LFPながの定例会」を定期的に開催する形を生み出した。

LFP事業の目的や仕組みを解説する「研修会」3回と、年度方針や間接補助対象となる事業を決めるなどする「戦略会議」3回の他に、食農連携に関わる取り組み報告、シーズ・ニーズ提供、アイデア紹介などができ、自由に意見交換できるリレープレゼンテーション&ディスカッションの場を3回にわたり設定し、都合8者がプレゼンに立った。そして、そこで提案された様々なプロジェクト案に関して、賛同・参画の意思を持ったパートナーに声をかけ、グループミーティングを3テーマにわたり合計5回程度開催し、その発展方向性などをめぐって議論を重ねてきた。

もちろん「定例会」や「グループミーティング」は、間接補助対象に選ばれた「アスキノ・プロジェクト」とは別立てであり、いわば並行的に4本程度のプロジェクトが産声を上げ、走り始めている。もちろんまだまだヨチヨチ歩きのものもあるのだが…。 このリレープレゼンテーション&ディスカッションの場=LFPながの定例会を定式化したことが長野県におけるLFPの取り組み最大の特徴と言えよう。

オープンイノベーションによる
地域の食・農・観光連携系事業の創発的発展

LFPながのパートナーは全部で52者(個人・団体)。数的には飛びぬけて多いわけではなかったが、参加者が属するカテゴリーが、農業や食品加工業者はもちろんのこと、農産物直売所・スーパー・卸売り市場・運送業者・広告代理店・報道マスコミ・大学研究機関・産学官連携支援機関・精密製造業者・市町村など多領域にわたったことが特徴。事務局の産直新聞社と元々関係が深かった産学官連携支援機関などが、自らのネットワークを通じてLFPパートナーへの参加を呼び掛けてくれたことなどもあり、農業関係事業への進出を模索する精密製造業者などの参加も目立った。

中央事務局から〝定番〟として提示されていた「研修会」でも、第2回目から、プロジェクト案を持つ団体にその基本骨格を発表してもらい、議論するスタイルをとった。長野県独自の「LFPながの定例会」では、それを発展させて、①信州地場産素材活用の土産品づくり、②地域農産物の都市への物流システム構築、③産地主体のローカルフードに関する消費者理解の促進、④昆虫食による食糧危機打破、⑤新しい形の体験型農業による観光開発、⑥新しい浄水システムを利用した食品産業の創出、⑦地域内の地場産食材の循環型物流システム構築…などのアイデア・企画提案を行ってもらい、それをめぐる議論をもとに、さらに有志を募ったグループミーティングに発展させた。 

ご存知のようにLFPでは「社会的課題解決と経済的利益の両立」が目的として掲げられているが、長野県事務局では、これまでの経験をもとに、一つの地域において同じ社会的課題の解決を目指す事業者は、連携・協働の形に入りやすいと感じてきており、「LFPながの定例会」において創発的な議論が期待できると考えていた。実際、「他の事業者がどんなことを考えているか知ることができただけでも大きな前進」という参加者の感想も多かった。

地域LFPの内発的主体性と各地のLFPの連携

農商工連携や農業の6次産業化など、これまでの地域食農連携に関わる取り組みにおいては、基本的には地場産食材を、「売れるモノ」に加工したり、仕立て上げたりして、中央に搬送して売り抜いていくという取り組みが主要なものとなってきた。そのため「売れるモノ」をつくり「売っていく」ことに関わるコーチングやサポートをしてくれる中央のコーディネーターの力が必要だった。 

しかし、LFPでは、むしろ、地域で直面している社会的課題について、自らの頭と力で掘り下げて考え、共有し、打開策を積み上げていく内発的な地域の力が求められている。各地のLFP事務局がどのようにしてそれを進めようとしているのか―その実例を相互に知り合い、それぞれの地域で活かしていくような地域間の連携と共同が、地域力の強化を促進するのではないかと考えた。農水省や中央LFP事務局とも連携して、こうした交流づくりに力を入れたことも長野県の取り組みの特徴と言えよう。

※この記事は「産直コペルvol.54(2022年7月号)」に掲載されたものです。

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