直売所

【直売所訪問記】「兵庫編」 はっぱや神戸野菜ごはん

全国の農産物直売所を巡ってご紹介する「直売所訪問記」。今号は兵庫県の直売所「はっぱや神戸野菜ごはん」を訪ねた。(文・羽場友理枝)

代表取締役社長・野菜流通コーディネーターの加古憲元さん

兵庫県神戸市にある「はっぱや神戸野菜ごはん」は、株式会社農産物流通研究所が運営する直売所だ。兵庫県内の農産物を販売する直売所を中心に、その農産物を使用したレストランやベーカリーカフェを運営している。平成21年にオープンした同店は、独自の集荷システムとオーガニックな農産物や加工品の豊富な品揃えが魅力だ。ご自身も無農薬で米を育て出荷しているという代表取締役社長の加古憲元さんにお話を伺った。

ベッドタウンの直売所

神戸市に畑はあるのだろうか?そんなイメージを持ちながら、向かったのは六甲山を超えたところにある神戸市北区。ベッドタウンにもなっている同区は都市近郊の田舎といった風情が漂っている。そこに直売所「はっぱや神戸野菜ごはん」はある。社長である加古憲元さんが仕入れや販売先など全体のことを行い、弟の祐樹さんが直売所の店長として運営を担っている。

生産者は兵庫県全域から200名ほどで、売上げは年間約3億円、今年で10年目を迎える直売所だ。生産者に協力を仰ぎながら西洋野菜の販売にも力を入れ、神戸市内のレストランと取引し、卸売は売上げの半分程を占めている。店に並ぶ野菜や加工品は、有機栽培やオーガニックの加工品などこだわりの商品も豊富で、安心や安全を求める子育て世代にも支持を得ている。

直売所に集まる野菜を売り切るためにと6年前にレストランを始め、3年前からはベーカリーカフェの運営も始めた。直売所に併設されているレストランでは、バイキング形式で直売所の農産物を使ったさまざまな料理が提供されている。「西洋野菜は卸売りで売れても、馴染みがなくて店舗ではなかなか売れなかったので、レストランのバイキングで味見して興味を持ってもらえたらと思っています。有料試食のような位置づけも兼ねていますね」と加古さんは話す。

作物や色ごとに飾られた商品棚

農機具屋からの異業種参入

加古さんが直売所を始めたのは26歳の頃。祖父が農機具屋を営んでおり、それを継ぐ形で兵庫県小野市に戻ってきた。いざ継いでみると、小野市は全国的にも農機具屋が密集している地域で、小さな農機具販売店がひしめき合っていた。今後のことを考えると「違う道も考えなければ」と思い、自分たちの客でもある農家の農産物を販売する直売所を始めることにしたそうだ。祖父が無農薬で米を育てていたため、生産者は自然栽培や有機栽培を志す祖父の仲間が中心となり、スタートを切った。

地元だけでなく兵庫県内から農産物を集める

 この直売所の店舗を神戸市に構えたこと、県内から農産物を集める理由は主に2つある。
 1つは、特別栽培などの付加価値をつけやすくするためだ。当初の核となる生産者が無農薬や有機栽培を志す人達だったこともあり、そうした農家が集まってくる中で、付加価値をつけた価格設定が地元では難しいと考えた。「あまりにも地元の人ばかりを集めると、出荷者もお互いがわかるから、付加価値をつけて出荷しても『なんでそんなに価格が高いんだ!』と言われると、周りの目が気になって強気に出られないんですよね」と加古さんはいう。地元だけでなく広い範囲から出荷物を集めることで周囲の視線を分散させている。
 2つ目は兵庫県の豊富な食だ。兵庫県は淡路島のある海から山まで食のリレーがある。少量多品目生産の農家も多く、さまざまな食を楽しめることが魅力だ。「兵庫県は品種も多くて、在来品種だけで300種以上あるんです。味も違うし、一般の流通ではできない美味しさを伝えたいと思っています」と話す。扱う野菜は年間3000種ほどという、同店自慢の品揃えにも繋がっている。

直売所で販売している加工品もバイキングで試せる

毎朝集荷に回る

もう一つの特徴は、開店当初から集荷ありきの店だということだ。農家のハウスなどを集荷ポイントとして借り、そこに生産者は品物を入れ、スタッフがそれを回収していく。毎朝店のスタッフが集荷に回る便と、淡路島などは週に一度、生産者が集めて持ってきてくれている。

「農家は農家としてその場にいてほしいと思うんです」と加古さんは話す。農家には販売に時間や手間をかけず、おいしい作物を作ることに専念してほしいと考えている。「最近は、農家が野菜を売りに都市部に向かう傾向もありますよね。僕は、農家は農地にいて、そこに都市部の人が来るような流れを作りたいですし、今後そうなっていくと思うんです」と力強く話す。

県内全域から集荷しているため、お店に様子を見に来られない生産者も多く、メーリングリストで売れている作物のランキングを頻繁に送っている。その情報を上手に利用し商品を作ってくれる生産者もいるそうだ。今後は、もっと細かな情報も逐一送れるようにしたいと考えている。

季節の伝わるポップ

直売所という小さな箱の中で野菜のテーマパークを

今後のことを聞くと、直売所が増えているなか、差別化を模索しているという。「直売所を始めて10年経つと、お客さんの顔も変わってきたのを感じるんです。歩いて来られなくなった方もいるし。それでも、直売所に来たいと思ってくれるように、家族と一緒に直売所に来ることが楽しいと感じてもらえるように、野菜を使ったテーマパークみたいな場所にしたいと思っています。新鮮・安心・安全はいまや直売所の前提としてあるものなので、今後はプラスアルファを考えていきたいですね」と楽しそうに話してくれた。

流行り廃りがないように「ちょいダサ」を意識しているという店内や、「神戸野菜学」という神戸の飲食店とコラボした野菜の勉強会、他企業とのカフェのタイアップなど、野菜を中心とした柔軟な発想を興味深く聞かせていただいた。今後、この直売所がどんなテーマパークになっていくのか、訪れるのが楽しみだ。

※この記事は、『産直コペル』Vol.35(2019年4月号)に掲載したものです。

はっぱや神戸野菜ごはん

住所:兵庫県神戸市北区山田町
   小部字大脇山17-1
TEL/FAX:078-594-8841


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産直コペル 編集部
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