直売所

宮崎県 農林水産物直売所 交流研修会 2023 要旨

 宮崎県農林水産物直売所交流研修会2023―直売所が直面する課題を解決するために―が、令和5年1月13日に開催されました。昨年は新型コロナ第6波と重なり、完全オンラインでの開催でしたが、今回は宮崎市の県電ホールで実施。オンラインでも多数ご参加いただきました。

 研修会の司会は、道の駅高岡ビタミン館 店長 森華恵さん。事例報告として、産直おすず村 代表 阿部泰士さん・道の駅くしま 株式会社 海山社中 代表 堀口一樹さん・星の駅たかざき 代表 大内康勢さん・特産センターごかせ直売所 店長 飯干啓司さん、4名にご登壇頂きました。

行政の送料無料キャンペーンの最大限活用と積極的な広報活動

産直おすず村 代表 阿部泰士 さん

 産直おすず村は、平成13年に開設し、昨年20周年を迎えました。登録会員数は約600名、常時出荷会員数約300名で、従業員・パート合わせて10名のお店です。阿部さんは産直おすず村の代表になって3年。様々な取り組みをされ、売り上げを伸ばしています。

コロナ禍の中、様々な取り組みで売り上げ増を実現された 阿部代表

■イベントの規模をコンパクトに、回数を増やす

 月2回の感謝祭・年1度の創業祭が、コロナ禍の影響ですべて中止になりました。沢山のお客様を集客するイベントが難しくなったため、規模を縮小したプチイベントを月3回開催する形にしました。プチイベントではお客様に楽しんで頂き、またご来店につながるように、抽選で商品券や商品の配布をしています。

 今までイベントの際には、商品を安く出して欲しいと生産者さんに協力を募っていましたが、それはやめました。現在は、店で予算を取り、生産者さんから商品を買い取り、プチイベントの際に配る商品としています。

 行列ができる人気のイベントだった、長崎県 西彼町漁協提供の牡蠣の販売も形を変えました。事前にご来店、ご予約いただき、販売当日に予約票を持って牡蠣を受け取りにご来店という形の予約制にしました。一度に沢山のお客様が集まらないように、形を変えたことにより、来店回数を増やすことにつながりました。

豊富な農産物が並ぶ、産直おすず村の店内

■行政による宅配便送料無料キャンペーンの有効活用

 店舗のある川南町では、新型コロナの影響を受ける町内経済の活性化策として、登録店舗の店頭で購入された特産品を、町外へ発送する際の送料を無料にするという事業を、3年前より行っています。そちらを最大限に活用するために、以下のような工夫をしました。

  1. 生産者さんへ贈答用のギフト対応の箱物商品をを多く出してもらう。
  2. JA商品のスイートコーン・イチゴ・ブドウ・メロンなどのギフト需要の高い商材を、選果場より厳選して店頭へ陳列。またチラシを作成してお申込みを承り、後日発送する仕組みを作る。
  3. 仕入れをしない、業者関係を入れない方針を変更。農産物と一緒に送りたい商材、箱詰めする際に合間に入れるのにちょうど良い商材を取り扱っている、土産物販売業者や地元のかりんとう業者の商品を取り扱う。
  4. 地元のワイン等の、酒類を取り扱う。

 お客様が宅配便送料無料キャンペーンを利用しやすいように、品揃えをギフト対応や、箱物商品を増やしました。また箱詰めするのに便利な商材も増やしました。お客様のギフト需要、コロナ禍で会えない方への贈り物需要とつながり、沢山のご購入につながりました。

■積極的な広報活動

 コロナ禍の1年目は、集客すること自体が憚られましたが、その後はどのようにお客様にアプローチしたらよいのか、広報活動の重要性を感じました。

 現在は、インスタグラムで店舗の情報を日々更新しています。また、私自身、人前に出るのは苦手ですが、店を沢山の方に知って頂くために、講演の場・テレビ等の取材も積極的に受けています。その他に、小学生の社会科見学、中学生・高校生・大学生の職場体験やインターンシップなども基本全て受け入れています。それにより、産直おすず村を身近に感じて頂き、来店頂くチャンスが増えると考えています。

■家族連れへのアプローチ 

 お子様連れの方に、シールの台紙をお渡し、来店ごとに1枚シールを貼り、10枚になったらガチャガチャを回せて、景品が当たるという、楽しんで頂けて、来店につながる仕掛けを始めました。

■今後の展望

 惣菜・弁当の品揃え強化のために、加工所を作りました。現在製造に向けて準備中です。

 子育て世代の方により来店頂きたいと考えています。そのために生産者さんと野菜をより美味しく楽しむ講座をも要旨、消費者との交流の場を作る。店舗隣の農園で野菜を育て、お子さんとプチ収穫体験ができるような場を作る、などの企画イメージが膨らんでいます。

販売手数料率25%に決まった経緯

道の駅くしま 株式会社 海山社中 代表 堀口一樹さん

 道の駅くしまは、宮崎県の最南端に位置する串間市に2021年4月にオープンしました。若い力で大胆かつ斬新な経営、販売手数料25%に設定した点でも大変注目されています。

今回はご都合が合わず、ビデオメッセージをくださった 道の駅 くしま 代表堀口さん

■25%がギリギリだった

本日は、手数料率25%となった経緯についてお話させていただきます。これから始動しようとしていた、道の駅くしまの運営者として、健全な運営をしていくために、経営シュミレーションを何百回としました。県内外の道の駅にヒアリングをさせて頂き、来駅者の予測・売り上げの予測・運営するのに必要な人員の数・売場に必要な什器の製作・購入・POSレジ購入に至るまでの、様々な投資費用。そして自分たちがこれから持つ施設のポテンシャルを想定しました。しかし多くの直売所で採用されている15%、18%、20%という販売手数料を当てはめて何度シュミレーションをしても、どうしても経営が厳しくなるという結果になります。販売手数料は25%がギリギリのラインという答えに至りました。

商品の色が映える、木製の什器を使用している、道の駅くしまの店内

■重ねた話し合い

 この事実をありのままに、道の駅出荷者協議会に伝えました。協議会のメンバーは、野菜・花木・果樹・水産・畜産・加工・工芸・その他、各部門の核となる方々です。運営側と出荷者側の双方が納得できるよう、手数料率を何%にするべきかを両者で何度となく話し合いました。結果、経営・運営する上で25%~30%以上の販売手数料が必要であるとご理解いただくことができました。その後も各方面からいろいろと意見はありましたが、協議会会長が一貫して、25%以上の販売手数料の必要性と、運営者が勝手に決めたのではなく、出荷者協議会が納得して決めた販売手数料なんだと、各所で粘り強く説明して頂き、少しずつ周知してくださいました。

■心に刻まれた会長の言葉

 「我々出荷者は、出荷物を持ってくるだけで、自分たちの儲けのこと、言い分ばかりで、勝手なことばかり言うが、管理を行ってくれて、現場で働く運営者は経営を行っていかなければならない、だからこれぐらいの手数料は理解をして、健全な運営をしていただかなければならない」という、道の駅くしまをスタートする上で力強い支えとなるお言葉を頂きました。それは今もしっかりと心に刻まれています。

 道の駅くしまは、運営者と出荷者協議会一丸となって盛り上げようという思いで取り組んでおります。それが我々の何よりの強みであると思っています。全国の皆さんと連携しながら、共に盛り上げていければと思っております。

味・思いを途絶えさせず、未来に繋げる

星の駅たかざき 代表 大内康勢さん

 大内さんは、高齢化により運営が困難になっていた都城市の直売加工センターの商品開発・経営を、地域おこし協力隊としてサポート。新会社を設立し、直売加工センターの経営を継承しました。その活躍は、地域の手作り加工事業を継承する全国的モデルの1つとなっています。

店舗の取材映像とともにご説明して下さった 道の駅たかざき 大内さん

 

■すべては宮崎への移住から始まった

 私の出身は岡山県です。東京で大学生活を過ごし、社会人を経験し、2017年に都城市に移住しました。事業継承するに至った、星の駅たかざきは元々、高崎町農産加工センターという名称で、都城市を代表する地場産品の惣菜・ドレッシング・菓子・漬物を製造し、その他に農産品、加工品、工芸品等を販売している直売所でした。その中の加工品部門は、平成18年より婦人部団体が集まって製造をスタート。地元の方だけでなく、観光客からの評判も高く、遠方からも多くのお客様にお越し頂けるような人気商品がいくつもあり、生産も販売も軌道に乗っていました。しかし、創業から26年以上が経過し、婦人部の方々の高齢化にもかかわらず、若い方への味の継承がなされてこなかったため、事業継承に不安が生じていました。その状況を見て、都城市が商品開発などをサポートする地域おこし協力隊を募集し、そちらに私が着任しました。

 任期中は、原木シイタケの捨てられていた軸の部分を乾燥させて粉末にした「原木しいたけの粉」等、様々な商品開発に携わり、以前からの人気商品についても、より一層の販売強化に力を注ぎました。

婦人部の方々と新規雇用の方が一緒に働き、味・思いを共有、継承している

■新会社を設立、新しい体制で

 3年任期の活動中に、今まで代表を務めていた理事長より事業継承の話を提案されました。多くの不安がありましたが、婦人部の方々の味を途絶えさせたくない、美味しい本物の味を次世代に繋げたいという思いが強く、私は新会社設立を決意。加工所で働いていた皆さんの全面的なバックアップが大きな支えとなり、株式会社ROPESを立ち上げ、事業継承するに至りました。

 こうして星の駅たかざきは、2020年10月から新体制でスタートしました。従来は、それぞれの方がそれぞれの商品を作って店舗で販売する形でしたが、それをメンバー皆で作る形態に変更。給与体系も時給制にしました。今まで、働いていた婦人部の多くの方々はそのまま残ってくださり、さらに新しく雇用した若い方に、味・技術そして思いを継承してくださっています。現在は、元々作られていた46種類の商品のうち、39種類を承継、製造販売しています。もちろん、既存商品の製造だけでなく、日々新しい商品の開発にも力を入れています。

■次世代に繋げる

宮崎県内には同じような加工所が約150ヵ所あるのですが、そのうちの約三分の二が、事業承継が進んでいません。私は今後も、そのような加工所の受け皿になりたいと思っています。そして、これからも地域特有の味が途絶えることがないように製造を続け、先人の方々が守ってきた大切な地域の文化を、次世代に繋げていきたいと考えています。

ずっと大切にしている「農家ファースト」の心

特産センターごかせ直売所 店長 飯干啓司さん

 特産センターごかせのある五ヶ瀬町は、宮崎県の北西部、九州の中央に位置しています。九州山地の冷涼な気候により、夏から秋にかけての野菜を得意としています。歴史上の経緯や道路事情等により、接している熊本県とのお付き合いも深い場所です。

野菜の売上を好調に伸ばしている特産センターごかせの飯干店長

 

■故郷の未来への不安

 私は、特産センターごかせに関わり始めて10年になります。始める際は、進む人口減少、若年層の流出、少子高齢化、仕事がない、農林業が振るわない等の地域の衰退、将来への懸念を強く持っていました。そして自分を育ててくれたこの地域のために、何ができるだろうかと考えていました。

 農林業が主産業の町ですので、農業が元気になれば、町も元気になるだろう。その拠点となる直売所があることで、農家が農業が、地域が現kになるだろう、という思いで農産物直売所を始めました。目標としたのは以下の項目です。

・農家の所得向上・・・出荷の間口を広げる。一般的な市場で規格外とされるものの取り扱い。

・高齢者・女性の生きがいづくり・・・家庭菜園からの収入(年金+αの実現)。

・地域の交流の場づくり・・・生産者と消費者、生産者同士、消費者同士をつなぐ。

・雇用の確保・・・雇用問題への取り組み。地域で働ける場を作る。

■農家の尊厳を傷つけない

 しかし、直売所と言ってもさまざまで、どのように直売所を運営するか手探りでした。そんな中、長野県伊那市にあります産直市場グリーンファームの小林史麿さんの本に出合い、書かれていた「農家の尊厳を傷つけない」精神や、運営方法を手本にしました。農家さんにとっても、直売をする私にとってもお互い挑戦という思いで始めました。

 その当時から変わらない、特産センターごかせの方針がこちらです。

■コロナ禍でも堅調な伸び

 レジ数も平成24年度2,300人から10年間をかけて、もうすぐ10万人になる勢いで増えております。売り上げも4000万円から、現在は1億2000万に達しようとしています。コロナ禍の3年間はやはり、お土産を中心とした売店と食堂の部門は下げ気味に推移しました。野菜の売上は新型コロナの影響を受けずに、その間も伸び続けたおかげで、全体としても売り上げが伸びた結果となっています。現在では、農産物販売の努力と実績を評価され、行政のバックアップを得て、野菜販売スペースも拡充されました。時期によって、病院や、お店がなくなってしまった場所への移動販売などもしていました。

■目指すのは「桃源郷」

 特産センターごかせに10年間携わる中で、沢山の方にお会いする機会がありました。その中に、元カルビー株式会社社長であり「日本で最も美しい村」連合副会長であった、故・松尾雅彦さんがいらっしゃいます。松尾さんは「農業を営む人は、もちろん生活のために自分のつくる作物がいくらになるか心配です。しかし、それ以上に30年、50年後どんな農村社会を孫や子に遺せるかは一層大事なことではないか。農村に住む人たちは自分のむらを桃源郷にするつもりで取り組んでほしい。高い夢を掲げるとその夢を拒んでいる壁がはっきり見えてきて、その壁を超える戦略が明らかになります」と言葉を残されています。自分自身も農家さんと一緒に野菜を売り、店舗を運営しながら、同時に自分の住んだ場所が今後どうなっていくのかを、しっかりと思いながらやっていかなければならないと思っています。

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産直コペル 編集部
この記事は、産直新聞社の企画・編集となります。