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【直売所の平成を振り返る】女性の社会参画×直売所

 平成は「女性の働き方」がとくにクローズアップされた時代だ。「男女共同参画社会」という言葉が浸透したのは平成11年頃のことだ。

 農産物直売所は「農村に暮らす女性の社会参画」や「女性農業者の地位向上」を目指した女性たちの活躍の場でもあった。昭和の終わり「生活改善普及事業(※)」などの流れを汲む農村の女性たちは、漬物や味噌、惣菜、市場流通には向かない農産物などを販売することで、社会参画を目指していた。時を同じくして誕生した直売所は、そんな女性たちの起業活動を後押しする存在でもあった。女性団体が直売所の運営そのものを率いたケースも少なくない。現在も直売所で人気の味噌や漬物などの加工品は、農村に暮らす女性たちのそんな活動を引き継いだ商品であることが多い。

 しかし平成に入り、働く女性や共働き世帯が増えたことで、皮肉なことに「農村女性の社会参画」を目指した活動に参加できる女性たちは少なくなっていった。もともと行政などから支援を受けることで、かろうじて成り立っていた女性団体も少なくない。事業として成り立たせることができないまま、後継者不足に陥っているところも多い。

 厳しい労働・不自由さを強いられてきた農村に暮らす女性たちの切実な声を聞き、生まれてきた活動だからこそ、その系譜を受け継いでいくことは直売所の大切な役割のひとつだろう。何より、時代の変化によって消え去ろうとしていた文化や伝統を引き継いできた活動でもある。時代にそぐわないと一蹴してしまうには、その活動が担った意味はあまりにも大きい。

 また、直売所の規模が大きくなるに従い、店舗運営の核となったのはパートタイマーの女性たちだ。家庭においても「食」に関わることの多い女性ならではの働きは、直売所にとって欠かせないものになった。しかし給与や福利厚生面での課題は今なお多く、女性にとって決して魅力的な職場だとは言えない直売所も少なくない。女性の働く場所としていかに魅力的な環境を作れるか―。新しい時代の直売所に課せられている課題のひとつではないだろうか。 

※戦後から数十年にわたり行われた農村の生活および農民意識の改革・衣食住の近代化を図った事業のことを指す。当初、栄養学の普及や保健衛生などの実用的な知識の普及などが目指された。

※この記事は、『産直コペル』Vol.35(2019年5月号)の特集に掲載したものです。

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産直コペル 編集部
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