直売所

【直売所訪問記】あすか夢販売所(奈良県)

飛鳥時代の古墳や史跡が数多く発掘されたことで知られる奈良県明日香村で、平成11年から営業を続けている直売所が「あすか夢販売所」だ。

同店で働き始めて7年、店長になってから3年という福井智也さんに話を聞いた。(文・柳澤愛由)

四季を告げる売り場

「あすか夢販売所」がある明日香村は、以前からイチゴの栽培が盛んな地域だ。11月〜5月くらいまでの間、同店の店頭には真っ赤に熟れたイチゴが数多く出荷され、売り場を彩る。

 「明日香の名を冠した『あすかルビー』という奈良県生まれの品種にこだわり生産しています。甘みと酸味のバランスが良くジューシー、イチゴらしい香りの良い品種でおいしいですよ」

 販売額もイチゴが断トツで1位。明日香村のイチゴ生産者は連帯感が強く、生産力も高い。「明日香促成苺出荷組合」という組合もあるほどだ。  「イチゴはもちろん主力ですが、『こんなものも売れるんだ!』と思うような直売所らしいものもたくさん出荷されますよ。ツクシやセリといった山菜やクリなどの木の実なども出荷されるので、昔ながらの農村の四季をそのまま感じることができる。直売所ならではですよね。そういえば、今年一番のフキノトウも出荷されましたよ!春が近付いてきていることを感じますよね」。福井さんは春の訪れを告げる売り場を見ながら、うれしそうな笑顔を見せた。

奈良県の伝統野菜から珍しいイタリア野菜まで、直売所ならではの農産物が豊富に並ぶ

生産者の主体的な活動が始まり

あすか夢販売所の始まりは平成10年。地域農業の振興を目的に(財)明日香村地域振興公社が発足されたことを機に、地元生産者を中心にして、もともと地区ごとに営業していた朝市をまとめ、直売所を設立しようという機運が高まったことがきっかけだった。

平成11年、生産者代表と公社、明日香村を構成員とする準備会が発足し、4月同店がオープン。当初は現在とは異なる小さな店舗で、生産者も99名からのスタートだったそうだ。しかし「安い!新鮮!安心!」というキャッチフレーズのもと、3拍子揃った直売所として、観光客にも地元客にも受け入れられ、徐々に売上を伸ばしていった。

平成13年に出荷生産者による組織「明日香村農産物等直売所運営協議会」が発足し、公社との共同経営という形を取るようになった頃には、出荷者数は200名を越えるまでになっていたという。生産者自ら経営に主体的に関わり、「売る」ことに積極的になったことで売上げは右肩上がりを続けた。  現在の店舗になったのは平成17年のこと。その年、生産者数は300名近くなり、売り上げも2億円を突破した。

村の直売事業を盛り上げるために

レジ前のスタッフ。「直売所は売れ残りをゼロにすることが使命」とスタッフ全員で陳列の仕方や接客の方法を常に試行錯誤しているという

生産者と公社の共同運営を長年続けていたが、規模が大きくなるにつれ、徐々に経営を他の運営主体に移していこうという動きが生まれた。そして平成21年、生産者を中心に出資者を募り設立されたのが現在の運営主体である「農事組合法人ふるさと明日香」だ。

実は明日香村には他にも2店舗直売所がある。昨年4月から、同法人では「あすか夢の楽市」という直売所の指定管理者にもなっている。生産者は、村が事務局を務める「明日香村6次化推進協議会」に登録することで、3件あるどの直売所にも出荷できるという仕組みになっているそうだ。  こうした仕組みになったのは約7年前。行政とも協力し合いながら、高齢化が進む村の直売事業の底上げを図っているという。

「安い」とは異なる武器を

あすか夢販売所がオープンしてから既に20年。オープン当時主体となって取り組んでいた人の多くが高齢になり、主力となる生産者の減少が続いている。

「これまで『安い!新鮮!安心!』が直売所の共通テーマだったと思います。でも、中でも『安い』という点については変えていかなければならないと思う。新規就農者と直売所がなかなかマッチングしない理由のひとつですからね。高齢化が進む中、直売所はこれまでとは異なる武器を持たなければならないと感じています」。福井さんはそう危機感を募らせる。

だからこそ、大きな売上を占めるイチゴの販売には力を入れている。「イチゴは売上を上げやすいですし、販路も広げやすい。実際若い世代も生産者として入ってきてくれています」

自慢の特産イチゴ「あすかルビー」

さらに最近ではイタリア系の洋野菜の生産と販売にも取り組んでいる。「最近は『プンタレッラ』という野菜を数人の生産者に呼びかけて試験的に作ってもらっています。既に東京のレストランで使ってもらっているものもあるんですよ。実は明日香村周辺はイタリア料理店が多いので、もっと販路が広げられると思う。他産地ではできない少量多品目な、食に敏感な方向けの野菜作りであれば、小規模農家が多い明日香村でも取り組めます。直売所を中心にチームを作れたらと思っています」

こうした店側の呼びかけに生産者もすぐに応えてくれたそうだ。「もともとチャレンジ精神旺盛な農家が多いのです」と福井さん。オープン当初から自身の農産物の売上を上げるため、工夫や努力を重ねてきた生産者が多い。チャレンジを厭わない雰囲気が根付いているという。  「生産者の主体性はこの店の原動力かもしれませんね」。福井さんは誇らしげな笑顔でそう教えてくれた。

※この記事は、『産直コペル』Vol.34(2019年3月号)に掲載したものです。

農事組合法人ふるさと明日香 あすか夢販売所

住所:〒634-0131奈良県高市郡明日香村御園2-1
TEL:0744-54-5670
営業時間:9:00-17:00
定休日:年中無休(正月は除く)