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【特集 直売所の平成を振り返る直売所の平成を振り返る】座談会「転換期を迎えた直売所 今後をどう考える?」

昭和の終わり頃から時代の流れとともに発展を遂げてきた直売所。ここでは、JA、民間、道の駅、直売所ネットワークづくりを担ってきたそれぞれの立場から直売所の30年を振り返り、本誌編集長とともに語っていただいた。(まとめ:編集部)

座談会で語った人
おおむら夢ファームシュシュ 山口成美 さん
群馬県みなかみ町 西坂文秀 さん
JAしまね 須山 一 さん
都市農山漁村交流活性化機構 森岡亜紀 さん
産直新聞社代表取締役 毛賀澤明宏

平成の終わりを迎えて

毛賀澤 直売所は平成の30年間で市民権を得て発展・変化し、その後高齢化や直売所の増加などさまざまな要因の困難から、転換期を迎えて「令和」に移ろうとしているのではないかと思います。これまでの歩みを振り返って変化してきたと感じることは何ですか?

西坂 近年は直売所が全国的にも増え、幾つかの成功方式を模した大型直売所も増えましたね。僕が直売所を運営していて感じたのは、人件費の変化です。愛媛でさいさいきて屋を始めた当初は、人件費も最低賃金が650円程でしたが、今では人件費が約3割も上がっています。でも売上げは一緒に上がるわけではなく、厳しいですね。生産者から受け取る手数料15%はなかなか変更しにくく、利益を出しづらくなった直売所も多いと思います。いずれは手数料を変えることも検討が必要です。

須山 直売所は、停滞する小売業の中で中山間地域においても成長を遂げている流通チャネルとして未だに注目に値します。でも最近は、本来の「喜んでもらえる喜び」が薄れてきて「出荷物を売る売場」に変貌してきた気がします。売れるために、品揃えとして仕入れ品目を増やした「なんちゃってスーパー」も増えました。こうした中で、直売所の売上成長の鈍化や前年割れが顕著となってきています。

西坂 仕入れは利益率40%程取れるし、飲食部門の原価なら60%程取れるので、経営だけを考えるとそちらに傾くでしょうね。今の直売所は赤字か黒字かで言えば、面白い事業じゃないのが現実的なところかなと思います。少ない人数で売上げや仕事量を考える必要があるので、よりスタッフの専門性が重要になってきていますね。

毛賀澤 直売所もこれだけ多くなってくると専門の販売員が必要になる。農家だけでは直売所を守れない側面もありますね。農家が出資者だとしても、経営をする専門職員は必要だと思います。

須山 専門職員の問題だけでなく多種多様な直売所がどのような理由で成長が鈍化したのか、前年割れに転じたのか?  成長の減少要因を解明することが重要だと思いますね。

直売所のはじまり

毛賀澤 直売所のはじまりはどう捉えていますか?

山口 僕は、最初は資金もなくビニールハウス内で販売していましたが、夏場は高温で野菜の鮮度が保てず、安定して販売できるような施設の建設に至りました。最大の魅力は農家の手取りが多いことでしたね。

西坂 僕は農協で共選共販を担当して、専業農家の荷物を集めて出荷することに限界が見えたことが直売所を始めたきっかけです。数の論理の共選共販や市場出荷は、年を重ねるごとに厳しくなり、小規模農家でも出荷できる場の必要性を感じました。

森岡 直売所の元祖といわれる所の1つは、昭和58年始動のJA花園(埼玉県)ですね。植木や花を販売していたところで野菜も一緒に売り始めた。一方、東北では減反政策との絡みで始まったところが多く、直売所は女性が立ち上げたところが目立ちます。

毛賀澤 青空市ではなく、常設の店で買えるようになったことが画期的だった。テントや期間限定の直売所が集まって常設になった流れも多いでしょうね。その後、平成になる頃から直売所が一段と増えた感覚がありますが、どうですか。

森岡 国の事業もありますが、農協が大きな直売所を作り始めたことも一気に増えた要因ですね。平成15年には、 JAファーマーズマーケット憲章が出されました。農協の大型店舗は平成19年頃より増えています。

毛賀澤 ご指摘の通りJAは平成15年に本格的に直売事業に乗り出しましたが、昨年10月2日には直売所の日を制定し、最近では、「直売所は農協の専売特許」とイメージ付けするCMが多く感じます。実際には先駆者が他に多数いますがね。

民間の直売所

毛賀澤 運営形態によっても違う流れがある。民間の直売所だとシュシュはどうですか。

山口 シュシュは地域の農家が資金を出し合い、平成8年にはじめました。平成12年4月に直売所に加えアイス工房、パン工房、レストラン、食育体験などの農業交流拠点施設としてオープンし、その後洋菓子工房、加工センター、観光農園など、年中楽しめるように取り組んでいます。

森岡 早い段階から複合化されていたんですね。百坪程で飲食部門があって小さな農家レストランがあるという形が、年表を見ていただくと(p8~)平成8~10年ごろに増えていったと思います。

毛賀澤 そこを目指して行く目的地型の直売所も多いかもしれないですね。

山口 民間で体験や加工までを行う総合的な施設は全国的にもまだ少ないと思います。今では三セクなどで総合的な施設がありますが、指定管理で多額の税金が投入され運営されていることが多いと聞きますね。

西坂 小さいところは立地の関係で観光地化などを考える必要があって複合化の道を進んだこともあると思いますが、運営の観点からも農産物の販売だけでは厳しくて、食堂や加工を行う複合化の道をたどる傾向が民間の直売所は多いでしょうね。

JAの直売所

西坂 さいさいきて屋(愛媛県)を始めたのは平成12年ですが、僕の認識ですと、 JAの絶対的な先駆者はめっけもん広場(和歌山県)だと思いますね。平成12年開店ですが、開店当初から三百坪レベルの大型店で、当時百坪くらいの直売所が多かった中で一皮むけて大きくなった印象です。初めから18億円程の売上げを出して、直売所がそんなに売れる認識がなかったので衝撃でした。

毛賀澤 さいさいきて屋にも視察が多いと聞きますが。

西坂 JAの大型店のなかにはめっけもんのように農産物を売ることがメインの典型的な直売所と、飲食、加工など複合化するところの大きく2種類があって、カフェや食堂、加工を合わせた複合化の流れはJA系の中ではさいさいきて屋が先駆的だったので視察も多いのだと思います。農産物の販売のみでできるところは割と大規模産地が多い。さいさいきて屋は小規模農家も多く、地域のニーズに応えているうちに人も増え店も大きくなって、できることも増えたという感じですね。

須山 JAの直売所は平成20年を境に大型直売所建設ラッシュが起きました。現在、直売所の淘汰の時代を迎える中で、直売所の大型化も進展し、競争も激化し、生産出荷者の奪い合いになっています。

山口 JAは広域合併している所も多く、広範囲から多数の組合員が出荷しているので、価格競争や価格破壊が起きて、所得向上に繋がらない状況もあると聞きますね。

須山 僕は、行政支援の下で高齢の農家対策として、複数店舗へ商品を搬入・搬出できる仕組みを作ることが、問題の解決策であり農業振興にとっても極めて重要な意味を持つと考えています。

山口 高齢者の生きがい対策だけでなく、後継者にも魅力のある直売所を目指していければ良いと思いますね。

須山 JAも共販ばかりでなく、本来の地域農業の活性化を真剣に考える時がきたと思います。

道の駅、第三セクターの直売所

森岡 平成になってからの直売所の増加は、国の事業の後押しもありますね。例えば、農水省の農業構造改善事業や、ウルグアイラウンド対策予算、ふるさと創生事業の補助金などが広く投入されました。それで建物や温泉が作られるなかで、これらの収益源として直売所は他に比べ経営が成り立ちやすいと行政も勧めていたように思います。そして、平成8年頃に第1次道の駅ブームが起こっています。

毛賀澤 行政主導で道の駅を作り、指定管理で道の駅の直売所運営を担ってもらう形をとったところも多いですよね。しかし、最近、行政関係の道の駅が運営の曲がり角にきているのではと思うんですがどうでしょうか。

山口 道の駅と三セク等で運営している総合的な施設もありますが、その大半は初期投資は勿論、年間何千万の税金を投入している所が多い。それでも交流施設などは倉庫と化しているところも多く見られます。国は道の駅を地方創生の成功例としていますが、税金の使い道によっては、民業圧迫にも繋がり、全国各地にアタマを痛めている自治体があることを真剣に考える時期にきていると思います。

毛賀澤 役場OBが道の駅のトップに就任する天下りの仕組みを批判する声もよく聞きますね。

西坂 行政職員は経営経験がない人が多いので直売所経営は厳しいと思います。もちろん例外もありますが、経営は確率のいいものを選ぶ確率論なので、経営経験のない人の中から良い経営者が現れる確率を考えるといい選択肢とは言えません。税金での赤字補填もある。自立できる仕組みを作ることが大切だと思いますね。

毛賀澤 ここ最近行政の手法は行き詰まっていて、経営力のある大企業に運営を丸投げし、直売所の出荷者をただ出荷するだけの人にしてしまう流れが強まっていると感じます。他にも、大学の先生達が起業し、運営するも経営経験は乏しく、調査と論文で終わる例も見受けられます。

直売所の役割①「ニーズにこたえた」

西坂  直売所は自家用野菜の余りを、経済が動く流れに乗せた。これが中小規模農家が大半の地域農業のニーズに合っていたと思います。全国的に専業農家の割合は約10%といわれていて、あとの90%程は兼業農家や小規模農家なんです。日本は国土が小さく大規模な生産ができない中で、直売所の仕組みと相性がよかったんだと思います。

森岡 その通りですよね。ですが、今は定番の直売所像のようなものを求めてはじめから複合施設化したり、地域のニーズを顧みていない店もあるようです。地域ニーズとの不一致は、集客不足だけでなく商品不足や担い手不足にもつながります。

毛賀澤 昨年の全国直売所サミットでも、「直売所は大きさや売上額で評価するべきではなく、農業を楽しく継続していく仕組みを作っているかだ」という話に最終的になりましたが、定番の設計図があるわけじゃなく、地域のニーズを考えて一つずつ重ねて発展してきたという話ですよね。

山口 消費者の観点からすると、直売所のニーズは近年変化してきています。例えば核家族化でかぼちゃやスイカはまるごと1個は多いから半分でいいとか、カレーを作るのにジャガイモ・玉ねぎ・人参が一個ずつのセットがないかとか、総菜売り場の充実とか、消費者に対する時代のニーズに対応した提案も求められていますね。

直売所の役割②「経済効率があがった」

山口 直売所ができるまで、農家は価格決定権がなく、生産原価割れでも販売せざるを得ない状況でしたが、直売所では農家自ら再生産可能な価格で販売価格を決めて販売でき、農業に希望を持たせてくれました。

須山 生産者は、少量で規格が伴わない農産物でも出荷できますし、丹精込めた農産物に自ら価格を決められることは革新的でしたよね。

西坂 直売所は、店は在庫を持たなくていいし、誰もリスクを背負わず売れる仕組みで、当初画期的でした。

山口 農家の所得向上に確実に繋がっていますね。シュシュでは6次産業に積極的に取り組んでいて、併設のレストランもあるので規格外農産物や珍しい農産物・旬の物も大量に使用でき、所得に繋げられています。

森岡 直売所があるから安心して新しい作物に挑戦することもできますし、農家を続ける寿命も延びました。

毛賀澤 農家の手取り収入は、どのくらい変わったんですか。

西坂 品目によっても違いますが、共選共販だと農家の手取りは柑橘だったら50%、野菜だと65%ぐらいで35%程引かれます。農協は大消費地に輸送するので箱詰めも輸送コストも必要で、資材代や、手数料を取られます。直売所は販売手数料15%程で最終形態で納品できるので自分の労働力のコストを考えなければ、手取りが良いと思いますね。

直売所の役割③「食の安心安全」

森岡 直売所にとって、もう1つの転機は食の安心安全への関心が高まったことですね。平成12年頃から、 BSE、食品偽装、中国産餃子問題など平成19年頃まで食品の安全を脅かす問題が続きました。

毛賀澤 そうした事件を背景に、顔の見える流通が直売所の大きな魅力になりましたね。

西坂 地産地消という言葉も聞くようになりました。共選共販は大消費地で売るから生産者が見えないのに対し、地産地消は経済圏が小さい。品物に生産者名があるので安心感があり、家庭菜園の延長の作物であれば農薬も多くないだろうという思いがプラスで評価されていました。今は、 生産管理を疑問視されてしまう時もありますが。もう一つ、朝採った野菜がそのまま直売所に並ぶ感覚も消費者にとって新鮮だったと思います。系統出荷では流通経路が長いと、店に並ぶまで5日程逆算して収穫しますが、直売所だと熟したものをその日に収穫・出荷するので、味は優れていますよね。

須山 生産者のニーズに直売所が応えた一方で、消費者の食品に対する新鮮、安価、安全・安心へのニーズが合致したんですね。

直売所の役割④「地域の交流拠点」

須山 直売所は精算サイクルも早く、お小遣い稼ぎにも繋がったので、地域のコミュニケーションツールになったと思います。 

西坂 母も直売所出荷者ですが、1日数千円程しか売れなくても出荷が楽しみで、生きがいにしています。

森岡 おばあちゃん達は出荷する量よりも買っていく量の方が多かったりもしますけど、それも楽しいんですよね。直売所は、地域の経済活動に貢献してますが、健康増進や社会福祉の観点から見ても効果を発揮しているでしょう。

山口 交流という観点では、シュシュではインバウンドの受け入れも積極的に行っています。食育体験や観光農園、グリーンツーリズム、農家民泊等の地域外の交流も今後不可欠だと思いますね。 

直売所の今後

毛賀澤 では、最後に新しい時代の直売所について一言お願いします。

西坂 農協は1県1農協時代になってきていて、統合するそれぞれの単協ごとに直売所も持っているので、共存が難しくなっている。直売部門も含めての転機だと感じます。

須山 山間地のそこでしか生きられない農家と、本当の生きがいのために生産活動をしている農家のためにも、大型ファーマーズマーケットではなく、農産物直売所を核とした地域活性化運動を再度考えることが重要だと思いますね。中小規模の直売所を増やすことで消費者は身近で「安全・安心な農産物や農産物加工品」を購入することができますし、地域の自慢の場所となれば、農家も販路が増え供給と需要の一致を図れると思います。

山口 今後は更に働き方改革等で休日も増えることが予想され、休日を田舎でゆったりと過ごしたい方々のニーズに対応できる体制を整えて農村観光ビジネスに繋げていきたいと思います。

森岡 私が新人の時、今村代表(*1)から、「1人の農家には何人も農業関係者がぶら下がっている。国民の食の最前線で働く農家は決して儲かっていないが、農家がいることで職業が成り立つ人もいて、そういう状況の中で自分が仕事をしていると考えなさい」と言われたことが印象に残っています。今後もそれを心に直売活動の支援に取り組みたいですね。

毛賀澤 新しい時代になっても直売所が地域に貢献する必要があることは基本だと思います。「農家があるから日本の豊かな暮らしがある」という考えは世間的に薄れてきていますが、だからこそ直売所の存在意義を再度考え、その魅力で人々を引き寄せていくことが、重要なのではないでしょうか。

*1:全国農産物直売ネットワーク代表・東京大学名誉教授 今村奈良臣氏

※この記事は、『産直コペル』Vol.35(2019年4月号)の特集に掲載したものです。

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