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【特集 LFP】農林水産省担当者に聞く!ズバリLFPが目指すもの

地域食農連携プロジェクト(Local Food Project:LFP)は全国22道府県で展開されている。事業を統括する農林水産省の担当者、松本秀明さん(大臣官房新事業・食品産業部企画グループ課長補佐)を霞ヶ関に訪ね、LFPが目指すものについて語ってもらった。
(聞き手=毛賀澤明宏/構成・文=熊谷拓也)

6次産業化の先を見据えて

農水省LFP担当松本秀明さん農水省LFP担当松本秀明さん

ー行政による食農連携の取り組みはこれまでもさまざま行われてきました。今なぜ、LFPなのでしょうか。

わたしたちがLFPを通して成し遂げたい目標は、一つ目に、100年売れ続ける商品もしくは事業を作ること。そして二つ目に、地域にビジネスを創出する体制を作ることです。最も簡潔に言い表すと、「稼ぐ力と体制を作ること」、これに尽きます。

皆さんご存じの6次産業化ですが、その取り組みを推進するための法律ができたのは平成23(2011)年のことです。以来、多くの商品ができて、どこの道の駅に行っても6次産業化の商品を見掛けるようになりました。ところが商品点数は増えたものの、持続可能な産業として成立しているのかといえば疑問に思う部分があります。実際、6次産業化の認定事業者の経営収支を見ると、売り上げは伸びているものの、その分人件費などの経費がかさんで収益が減少しているケースが少なくありません。この傾向は毎年続いています。

今の6次産業化は個別の事業者による加工・販売が中心ですが、そもそもの概念は、農山漁村全体の6次産業化を目指していたはずです。今浮かび上がっている課題と照らし合わせると、地域全体でビジネスを創出する方向性がおのずと見えてきます。
ただし、個別の事業者の経営資源には限界があるため、単純に生産者と加工業者をマッチングするだけでは、できることに限界があります。これまでも同様の試みがありましたが、なかなか付加価値の向上につながりませんでした。

食品加工場で働く女性食農連携の先駆け的存在が6次産業化だ

では、どうすればいいかと考えたのが、LFPのキーワードである「プラットフォーム」です。業種を越えたメンバーが集い、地域全体を考えた時に何ができるのか、みんなでアイデアを出し合う。そうした場が必要だと考えました。

ただ、事業を営む上で大切なことは、「なぜやるのか」という視点です。地域では高齢化が進み、子どもの数も減っています。住み続けられる地域を維持するために産業はなくてはならないものです。そうした状況の中、地域の人が集まって新たなビジネスを創出する時に、「地域のために産業を興す」という考え方がベースになければなりません。

そこでヒントを得たのが、営利企業が社会ニーズに対応することで社会的価値と経済的価値の両方を創造しようとする、アメリカの経済学者のマイケル・ポーターが提唱する共有価値の創造という経営戦略のアプローチでした。地域のために興す産業とはどのようなものか。考えあぐねていた時にピタリとハマったのがこの考え方でした。社会的課題解決と経済的利益の両立というキーワードが位置付けられているのはこのためです。

道の駅の売り場に並ぶ農産物加工品道の駅の売り場にはバラエティー豊かな農産物加工品が並んでいる

熱い議論が仲間を作る

ー4月に事業が始まって、令和3年度の折り返しが過ぎました。現状をどう見ていますか。

社会的課題解決と経済的利益を両立してビジネスを考えるためには、地域の将来像をきちんと見据える必要があります。地域の10年後の姿をLFPの目標として掲げて、そこからバックキャストの考え方で「最初の3年間にまずはこれをやろう」「中間となる時期にはあれをやろう」「最後の年に向けてこうしていこう」というビジョンと戦略を持って取り組む必要があります。

LFPは令和3(2021)年度に始まったばかりの事業ですから、事業の実施主体となる都道府県の担当者さまも、取り組みの趣旨を理解するのに時間がかかったと思います。ただ、確実にLFPへの理解が広がりつつあると感じています。わたしが各地の取り組みを見ていて「うまくいっているな」と思う自治体は、LFPを通じて知り合ったメンバーが早くも固い関係性を築いています。そうした地域ではとても活発な議論が交わされていて、皆さん本当に仲間のような意識が芽生えているようです。どうしてこう上手くいっているのかをわたしなりに考えたところ、きっと皆さん、地域を将来どうしていくべきかを以前から真剣に考えていたのだろうと。そうしたメンバーがLFPを通じて出会い、一人一人が持っていた問題意識が見事に融合したのではないかと、勝手ながら想像しています。

本誌編集長の質問に答える松本課長補佐本誌編集長の質問に答える松本課長補佐
中央LFP事務局による支援イメージ中央LFP事務局による支援イメージ

都道府県の間接補助事業に選定されているプロジェクトでは、直接関係する企業や団体しかプラットフォームに入っていないケースが多いですが、できれば幅広い業種の皆さんに参加してもらいたいと思っています。例えば、プロジェクトと自社の事業が直接関係のないものであっても、LFPパートナーとして連携することで新しい発見やアイデアが生まれるかもしれません。また、社会的課題の解決と経済的利益の両立というLFP的な見方をすることで、自社の今後のビジネス展開の新たな可能性に気が付くこともあるでしょう。そうやって一人一人が地域の課題解決に目を向けていけば、地域全体が少しずつ変わっていくのではないかと思います。

LFPのプラットフォームでは、同じ目的意識を持って取り組む各都道府県のパートナーが延べ1000人以上の規模になっています。そういう仲間が全国にいるということは、シンプルにすごいことだと思います。今は地域ごとそれぞれに課題へと向き合っていますが、自治体を越えて共通の課題に取り組むという展開も、将来的には考えられるかもしれません。

直売所も次のステップへ

地元客で賑わう農産物直売所地元客で賑わう農産物直売所

ー直売所がLFPパートナーになることも考えられると思います。最後に直売所についてのお考えをお聞かせください。

直売所という業態はすでに成熟していて、とりわけ経営が安定している施設については、次のステップに進むべき時期にきているのではないかと思います。人気のある直売所は、地域の人たちがいい品を求めて足を運んでくれるようになっています。ただ、それだけで終わらせてしまってはもったいないです。地域に根差しているという強みを生かすとしたら、モノではなくサービスで勝負するという考え方があっていいと思います。

すでに取り組んでいる直売所もあるかもしれませんが、例えば、家庭で調理しやすいカット野菜やカレーセットに加工して提供するとか。地場産品で作ったミールキットが直売所にあれば素晴らしいと思うんです。皆さん共働きでお母さんは仕事と家事を両立しなければならない、子どもは部活動で帰りが遅いと…皆さんとても忙しい。そういった社会的な背景がある中で、簡便だけれども、しっかり地域のいいモノを使った直売所らしいサービスを提供すれば、消費者にもピタリとマッチします。

今挙げたのはあくまで一例ですが、そうした新しいアイデアが、多業種の集まりの中で生まれてくるチャンスがLFPにはあります。直売所で取り扱う農産物の品質に加えて、直売所そのものの価値や存在意義が高まる、そんな流れにつなげていきたいと思います。

店頭ならぶりんごプラスアルファの新たなサービスが打ち出せるか

LFPで地域にイノベーションを創発する

中央LFP事務局統括プロデューサー 坂井 雪さん中央LFP事務局統括プロデューサー 坂井 雪さん

LFPでは1年限りで終わることのない、5年、10年と続く新しい産業を地域に根付かせることを目指しています。そのためには、「イノベーション」を創発しなければなりません。イノベーションとは、一般に「技術革新」と訳される言葉です。それは今までの取り組みの中では起こりえず、異なるベクトルに向かって物事が動き出した時に生じます。つまり連続性ではなく、非連続性の出来事というわけです。

中央LFP事務局には、業務全体を管理するプロデューサーがわたしを含め3人、都道府県へのコーディネーター派遣などを調整するネゴシエーターが5人います。どのメンバーも、食・農・観光分野において現場での実務経験があります。ただし、わたしたちの姿勢としては、地域にできることは地域でやってもらう、が基本です。でも、地域の中だけで完結させてしまうと、今までの取り組みの範囲内で考え、代り映えのしないメンバーで動いてしまいがちです。そこに新しい観点や価値を与え、プロジェクトの内容をブラッシュアップさせるために、中央LFP事務局があります。

令和3年度前半は、このLFP的な考え方を理解していただく準備期間でした。この間、それぞれの地域で研修会・戦略会議を重ね、ようやく方向性が見えてきました。今はその可能性の種を芽吹かせようとしています。わたしたち中央LFP事務局も共にワクワクしながら、夢を形にするお手伝いをしていきます。

※この記事は「産直コペルvol.51(2022年1月号)」に掲載されたものです。

この記事を書いた人
産直コペル 編集部
この記事は、産直新聞社の企画・編集となります。