農水省の通達を受け、令和3年度、参加を表明している22の自治体は、どのようにLFPに取り組み、どのようなアイデアが出てきているのか?
自治体が強力なリーダーシップを発揮し、進捗が著しい宮崎県を筆頭に、選りすぐりの6県の取り組みを紹介します。
最終目標は、フードビジネス振興による所得向上・雇用確保
温暖な気候で、柑橘類などの名産品も多い宮崎。同県のLFPは今、大いに盛り上がりを見せている。95もの団体や企業がパートナーとして名乗りを上げ、現在、令和3年度の間接補助事業を含む8つものプロジェクトが同時並行して進行するという、LFP推進事業のトップランナーの全貌とは?
(インタビュー=毛賀澤明宏/構成・文=中村光宏)
旗振り役はわずか2人
宮崎県のLFP事業は、農政水産部 農業流通ブランド課が担当している。その中で、LFP事業は主に2名の職員が担当している。Zoomが繋がると、パソコンの画面に南国の太陽さながらのその2人、金子貴史主幹、前田優香子主任技師の笑顔が映り、LFP事業に意欲満々であることを感じさせた。
「私たちはまず、この事業を通じて国が求める〝社会的課題の解決と経済的利益の追求〟、その両立の可能性について大いに悩みました」と金子さんが画面越しに話しはじめた。「年度明けからはじめたんですけど、県内の事業者と話し合いをすればするほど、新型コロナの影響で皆さんが本当に苦しい中、社会的課題の解決という大きく実感が湧きづらいことを話しても、皆さんにはあまり響かなかったんです」(金子さん)
そこで2人は、敢えて短期での課題解決が見出せる形に変えることを決意。咀嚼して、『「食」を取り巻く変化と対応』というテーマで、改めて説いて回ったという。
「国産回帰や地産地消、巣ごもり需要の拡大、ECサイトやネットスーパーの伸長など、これまでにもあったけど明らかにコロナで加速したものに対応することに話を絞り、ピンチをチャンスと捉えてポストコロナの新しいマインド、生活様式にフィットする新商品や新サービスをみんなで作ってみませんか、とお話ししました」(前田さん)
10カ年計画の柱のひとつ
実はみやざき食農連携プロジェクト(みやざきLFP)は、令和3年3月に策定された、地域の食資源の高付加価値化を目途にした10カ年計画「第8次宮崎県農業・農村振興長期計画」の柱のひとつでもある。その時点ではまだ間接補助事業ひとつを選ぶだけだったLFPだが、6月に県の補正予算が承認されたことで他のプロジェクトにも県独自の補助金が付いた。5月に宮崎県農業振興公社に依頼して、商品開発支援に関わりのあった専任のコーディネーターを含む4名体制となったみやざきLFPは一気に加速することになったという。
「7月2日には、無事〝みやざきLFPプラットフォーム〟の設立にこぎ着けました。それまでに私たちが回った団体や企業は50程度でしたが、事業者が事業者を呼ぶ形が生まれ、現在は95もの事業者がパートナーとして参加してくださるまでに拡大しています」と前田さんが話す。すると即座に「苦しい中だけれども、アイデア、経験を持ち寄って、強みを出し合って、みんなでチャレンジしていこうという気運が日に日に高まっています」と金子さん。Zoomを繋いだ瞬間に見た、2人の喜びに満ちた笑顔の意味が分かった気がした。
テーマは6つ
2人は次に、パートナーたちと話し合いながら、より具体的なテーマづくりを進めはじめた。そして、最終的に〝有機〟〝機能性〟〝保存食〟〝香り〟〝輸出〟〝観光〟という6つのテーマを作成。パートナーに自ら選んでもらう形で、テーマ毎の分科会を作ることになった。
「テーマを絞ってしまえば、もっと簡単に、効率よく進めることもできたと思うのですが、県が設置するということは、どういうことなのかということを真剣に考えました。その結果、今コロナで苦しんでいる方々に1人でも多くご参加いただきたいと思い、思いきって大きなプラットフォームを作りました」(金子さん)
テーマは6つだが、プロジェクト数はもっと多い。例えば〝有機〟というテーマの中に、有機野菜の6次産業化を考えるチームやオーガニックを標榜する商品の販売会社を中心にしたチームなど複数が存在し、現段階では、各事業者は6つのテーマの中に属するいずれかのチームに参画している。複数のプロジェクトに参加する事業者も少なくない。
「まったく関心の異なる事業者さまに集まっていただいて『はい、どうぞ』と言っても、おそらくは何も進まない、または非常に効率が悪いと思うんです。だからワークショップについては、私どもがリサーチした上で決めたこの6つのいずれかの関心がある分野の元にお集まりいただくことにしました」(前田さん)
また、この6つのテーマはあくまでも暫定的なもので、「これからは、例えばビーガンではないか、SDGsのような切り口はどうかみたいな議論も出てくると思いますから、テーマ自体をマイナーチェンジ、場合によってはフルモデルチェンジしたって構わないんです」と金子さんは言う。2人はパートナーが自発的に変化させてこそLFPだと考えているのだ。
綾町ロケット
「ロケットの絵(※図1)を見てください。例えば有機のテーマをひとつの発射台に例えて、そこには綾町の生産者グループの下に集まったチームが乗っている〝綾町ロケット〟、オーガニック製品を販売する企業が集まって乗る〝オーガニックロケット〟みたいなロケット=プロジェクトがたくさんあるイメージ。それぞれの発射台=分科会にロケットがたくさんできて、調理の有無や手間のかかり具合、健康志向やちょっと贅沢な自宅時間みたいなポストコロナで想定される消費ニーズに向かってそのロケットたちが思い思いに飛び立っていく―そういう感じになったらいいなと思っています」(金子さん)
しかし金子さんたち行政サイドは、そこにどのように絡んでいくのか? かくも情熱的に行動している2人だけに、単なるオーガナイズや調整役ではもったいないと思いながら尋ねてみた。すると金子さんが、「主役はあくまでもパートナーの方々。私たちは、パートナーの方々には『皆さんはロケットを作ってください。行政は、それに入れる燃料をLFPというツールで作って、皆さんに供給しますから』というお話をさせていただいています」と、自らの役割を嬉しそうに話してくれた。
95社のクルーと8つのプロジェクト
現在、LFP宮崎のロケット発射台には、8本のロケット(=8つのプロジェクト)が立っていて、飛び立つ日を待っている。まだロケットの形になっていないものもあるが、まもなく飛び立とうという機体もあるという。そしてその中には95人(社)のクルーが、各々自分の目的地に向けたロケットに搭乗し、今か今かと発射を待っている状態だ。
「令和3年度につきましては、その8本のうち、最も国の方針に沿っていた有機発射台の綾町産有機農産物使用の新商品開発を国庫補助事業とし、LFPの予算で給油することとなりました。短期的にはポストコロナに対応する新商品・新サービスの開発により、コロナ禍で落ち込んだ県産品の消費回復と拡大をという、事業者さまにご理解いただきやすい内容を目途として動いていますが、特定の事業者の新商品や新サービスがヒットしましたというところに留まってしまってはLFPではない。持続可能な新しいビジネスモデルの創出という真の目的に即して、宮崎なりの中長期プランもしっかり考えています」と言って、金子さんが画面上に示してくれたのが図2だ。
LFPロケットから生まれた新商品や新サービスが、まず左側の「雇用創出」までの好循環で一定の社会的課題の解決を図る。さらに県としては、右側の流れにあるようにもっと宮崎を知りたい、宮崎が好きだ、というファンも増やしたいと考えているという。
「多少は落ち着いたとはいえ、やはり今はまだコロナの影響でのんびり観光を楽しむという空気ではないかもしれません。しかし8本のロケットの中には、オンライン観光ツアーなどを目的地に飛ぶものもあり、それらを通じて少しでもファンを増やしたいと思っています」(前田さん)
そうやって遊びに来たファンが、宮崎で食資源や観光資源を楽しんで外貨を落としてくれ、さらにはLFPが生んだお土産を持って帰ってくれて宮崎の商品が国内外に知れ渡っていく―そういった価値連鎖、幸せの連鎖を生み出して、地域経済の活性化ができたらいいなと、2人はよく話し合っているそうだ。
新たな雇用を創出したい
また宮崎は今、高校生や大学生の、県内に就職したいというニーズが増えているという。そしてその根底には、大好きな宮崎で暮らしていきたいというマインドがあるらしい。
「宮崎には美味しい一次産品がたくさんあるのですが、今までの宮崎は素材供給型産地と言われていました。県内で加工まで行って、更なる付加価値をつけて販売するということについては大きな伸びしろがあると期待しています」(金子さん)
そこで2人は、LFPを通じて今まで県外に流出していた加工部分を宮崎の中で実現し、新たな雇用を創出できればとも考えている。
「宮崎で暮らしていきたいという人たちが、安心して幸せに暮らせる地域づくりができたらいいなという考えを、LFPの最終的な中長期ビジョンとして掲げています」(前田さん)
金子さんたちは、LFPとはダイナミックなものであるべきだと考えている。そしてそれは、異業種の人々が参集したことで、既に色々なイノベーションが生まれているだけでなく、各ロケット間の交流の中でも多くの価値連鎖が生まれていることが証明しているという。
「見ていても本当に面白い、私も参画して一緒にやりたくなってしまうような化学反応が出てきているんですよ」と金子さんが言う通り、事業者が多い分だけアイデアも数多く、議論も活発化。結果、8プロジェクトの各々が交わるなどして、さらなる膨らみを持ち始め、どんどん魅力が増しているという。
今のみやざきLFP事業の活況は、もちろんパートナーになった事業者や事務局と一緒になって作り出したものだろうが、そのきっかけを作り、今なお最前線で奮闘する金子さん、前田さんがいなかったらなかったに違いない。しかし既にLFP事業は2人の保護の元を離れ、パートナー自身が最前線に躍り出て、2人が想像もしていなかったような大きく、希望に満ちた世界を創出しているように思えた。農水省、いや国が望んでいるLFPの真の姿は、まさにこういうことなのではないだろうか。
※この記事は「産直コペルvol.51(2022年1月号)」に掲載されたものです。