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【特集 直売所の新世代リーダーたちに聞く】信濃町でつながる縁を大切に~長野県信濃町「道の駅しなの」

長野県北部に位置する信濃町で開設以来23年、営業を続ける道の駅しなの。新井匠さん(41)はその2代目の支配人だ。30代で今の立場となり、社員と共に道の駅の新しい体制を築いてきた。(文・柳澤愛由)

道の駅しなの 新井 匠さん 1980年、長野県長野市生まれ。道の駅しなの支配人

入社3年目で支配人に

2014年9月に、道の駅しなのを運営する(有)信濃町ふるさと振興公社に入社した新井さんは、そのわずか3年後の2017年、支配人に抜擢されている。もともと、道の駅しなのにはお土産品などを売る売店とレストランがあり、直売所は夏から秋にかけての期間限定。当時はコンテナハウスを駐車場の一角に建て仮設の直売所としていた。売店の裏手に、年間を通じた常設の地場産品直売所「いっさっさ」がオープンしたのは2018年。新井さんが支配人になった翌年のことだったという。

2018年にオープンした常設の農産物直売所「いっさっさ」

「正直に言うと、支配人になった当初は本当にバタバタしていました(笑)。単純に、売店と直売所、管理しなければならない建物が2つになるというだけでも大変で。社員全員で今の体制を作っていったように思います」と新井さんは柔和な笑顔で振り返る。

館内のお食事処「天望」のメニュー看板。出荷される旬の農産物を使ったメニュー開発にも積極的

支配人となった新井さんは、新しい直売所のオープン準備とともに、新体制をどう形作るのか、試行錯誤から始めたという。まず取り掛かったのが、道の駅しなのの「理念」を明確化すること。そこで店の「生存領域」として掲げたのが、「信濃町でのつながりによる笑顔づくり業」という言葉だ。

「社員も生産者もお客さんも、皆、縁があってこの店に来ている。その〝つながり〟を大切にしたいと考えました」 支配人となる前から多くの生産者とも関わり合ってきた新井さん。「右も左も分からない中、いろんなことを教えてもらってきました。農家さんにかわいがってもらいながら今があるんです」と言う。だからこそ、道の駅の命題ともいえる「信濃町産の農産物をいかに売るか」、という点には常に注力してきたそうだ。

冬の信濃町を売るために

信濃町の特産で、夏が旬のトウモロコシは、道の駅しなのの代名詞と言っても過言ではないほどファンが多い。そのほかにも、米やソバ、夏でも冷涼な気候を活かした高原野菜などの栽培が盛んな信濃町。昭和の初め、カナダから来た宣教師がこの地を拠点としたことから、トウモロコシだけでなく、ブルーベリー、ルバーブなどの作物の栽培が他の地域より先んじて定着したことでも知られている。

一方、冬は日本海側気候らしい豪雪地帯となる。200センチを超える積雪となることも少なくない。そんな地域性もあり、冬場の作物をいかに確保し誘客を図るか、多くの課題があった。

そこで取り組んできたのが、冬の雪を活用した雪中野菜や雪室野菜の販売だ。以前からの取り組みではあるものの、「いっさっさ」オープンを機にさらに力を入れ、生産者へも呼びかけながら、2022年1月には、それらを「雪まち野菜」と命名しブランド化。信濃町役場と連携しながら、「冬の信濃町」を売り出すため、リーフレットや紹介動画の製作にも取り組んだ。

2022年1月より、新たにブランド化した「雪まち野菜」。デザイナーに依頼し、ロゴマークも作成
「いっさっさ」の裏手につくった雪室から、社員とともに野菜を取り出したときの様子。瑞々しく甘みが増している野菜たち

「道の駅という性格上、役場といかに連携するかは重要なことだと考えています」と新井さん。もともと、常設の直売所を開設したのも、信濃町の農家の冬の収入源をつくるという町の目標があったから。現在、雪中にんじん、雪中きゃべつ、冬のビニールハウス内でつくられる寒じめほうれん草、雪室で保存した白菜等、6軒の生産者が雪まち野菜を出荷している。野菜は寒さに晒されると、自らが凍らないよう糖度を上げる。さらに雪の中であれば、温度、湿度も一定に保たれ、乾燥することなく鮮度が保たれる。凝縮されたおいしさが雪まち野菜の特徴なのだそうだ。 

「信濃町は空が広いので、晴れた冬の日は雪と青い空のコントラストも映えて、本当に気持ちがいいんです。雪に魅力を感じ、移住してくる人も多い。そんな冬の信濃町の魅力をもっと知ってもらうことも道の駅の役割だと考えています」

雪まち野菜というネーミングにも〝雪の町〟信濃町と、〝雪を待つ〟暮らしの魅力を伝えたいという思いが込められている。

伝統野菜という地域の宝を道の駅で

「ぼたごしょう」「黒姫もちもろこし」「からごしょう」「冬ささぎ」等、「信州の伝統野菜」への登録品数が多いのも、信濃町の特徴だ。「この伝統野菜、実はたった一人の農家さんから全て種をもらっているんです。中には特定の食べ方にしか使わないような野菜もある。F1品種が台頭する中で、よくぞ今日まで伝えてくれたと、心から思います。信濃町の宝ですよね」。町役場と連携し、生産者との関係性を築きながら伝統野菜の保全にも力を注いでいる。中でも「ぼたごしょう」は、夏から初秋にかけて収穫される中辛のトウガラシで、長野県北部の郷土料理「こしょう味噌」には、この味が欠かせないと買い求める人も多い。うま味のある辛さで新しいファンも増えつつある作物だ。最近は、その栽培拡大を目指し、障害者施設に生産の一部を担ってもらう「農福連携」にも取り組んでいる。

信濃町の伝統野菜「ぼたごしょう」。中辛のトウガラシで、そのおいしさから徐々に知名度を上げている

「スーパーなどでも新鮮な地場の野菜が買えるようになって、道の駅らしさ、直売所らしさとは何かをよく考えるんです。鮮度の良さや、価格だけでは、特色を出しづらい。だからこそ、他にはない地域性を大事にしたいと思うんです」

最近は、伝統野菜をはじめ、農産物をお土産として購入してくれる人も増えている。信濃町という地域性、そして生産者の顔や、その思いを知るからこそ、「お客さんとの会話がこの仕事をしていて一番楽しい」と新井さん。「『この間おすすめしてくれた野菜がおいしかったから』と言って、もう一度お客さんが買いに来てくれた時は、うれしかったですね」。こうした小さなきっかけで、信濃町でつながる縁がまたひとつ、生まれている。

ボトムアップ経営を心掛ける

社内では、「常にチャレンジできる環境をつくりたい」と、ボトムアップ経営を心掛けている新井さん。社員からのアイデアも、筋が通っていれば、「やってみよう!」とまずは後押しするようにしているそうだ。このコロナ禍で一時、店を閉めたこともあったが、その間、「何もしないのはもったいない」と社内で話し合い、裏手にある山林に収穫体験用のジャガイモを植えたり、遊歩道をつくったりと、社員総出で整備を行った。「縁あって訪れたこの店で、思い出をつくって欲しい」と始めた取り組みだ。客からの評判もよく、手応えを感じているという。

コロナ禍中に整備した遊歩道。夏場は子どもたちにも好評だった

「ただ買い物をして帰る場所ではなく〝目的地となる〟道の駅を目指したいよね、という話を社員とはよくするんです」

一方、コロナ禍を経験したことで、観光客だけに頼らない、新たな取り組みも始めている。信濃町は、ナウマンゾウの発掘で知られる野尻湖や、北信五岳のひとつ黒姫山の麓に広がる黒姫高原などを有し、観光スポットも多い。しかし、「変化の激しい観光だけに頼った待ちの姿勢でいては、いずれ立ち行かなくなるのでは」と、オリジナル製品の開発や、乾燥野菜の製造卸などの新規事業も開始。最近では、トウモロコシの粉末を利用したスープなどの新商品の販売も始めている。「現状維持ではなく、チャレンジしながらトライ&エラーで前進していきたい」と、新井さんは未だ続くコロナ禍にあっても前を向く。

若手の生産者を巻き込むには課題も

課題も感じている。道の駅しなのでも、主力の生産者の高齢化は進んでいる。ただ、新規の登録が全くない訳ではなく、定年後に農家を継いだ60~70代前後の就農者が新たな生産者となってくれているという。一方、若手の新規就農者の登録は、まだまだ少ない。最初は出荷してくれていたとしても、自身で販路を見つけると道の駅から離れていってしまうケースもあるそうだ。若手の新規就農者にとって、荷造り・出荷・売れ残りの回収と、直売所出荷はどうしても手間がかかる。集出荷や買い取りなどを検討したこともあるそうだが、実現には至っていない。「効率化をつきつめると、どうしても農協さんよりになってしまう気がします。それでも、道の駅らしさ、直売所らしさをどう残していくか、きちんと考えて取り組む必要があると感じています」。ただ、店の負担が増せば、15%というわずかな手数料では回しきれなくもなってくる。「手数料を変えることは難しいけれど、道の駅も転換点を迎えているということはひしひしと感じています」と、その課題を口にする。

コロナ禍を経験し、新たな取り組みとして開発したコーンスープ「もろこしおスープ」。信濃町産トウモロコシの芯まで使っている

 道の駅経営で大切なことは何かと問うと、「バランス感覚」だと答えてくれた。「たくさんの方が関わる場所だからこそ、全ての方の意見を取り入れることはなかなかできません。でも、それぞれの方の本音をきちんと聞きながら、活かせる部分は活かすことで、小さな地域の中での事業は成り立っていくのだと感じています」。

 新井さんを始め、道の駅しなのの社員は、明るく朗らかな人が多い。道の駅の役割とは何か、皆が思いを共有し、前を向いて取り組んでいる雰囲気が伝わってくる。「信濃町で働くなら道の駅、と言われるようになるのが目標です」と笑顔で語ってくれた新井さん。 信濃町でつながる縁を大切に、地域のためになる取り組みをコツコツと積み重ねることで、地域の人にも訪問客にも信頼される道の駅づくりが実現するのだろう。

※この記事は「産直コペルvol.52(2022年3月号)」に掲載されたものです。

道の駅しなの
長野県上水内郡信濃町柏原1260-4
TEL:026-255-2900 FAX:026-251-7101
地場産品直売所いっさっさ
TEL:026-217-1189 FAX:026-217-1136
WEBサイト:https://f-tenbou.com/

この記事を書いた人
産直コペル 編集部
この記事は、産直新聞社の企画・編集となります。